目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

IF アリシア・ラヴェンデル 未来譚

《sideアリシア・ラヴェルデル》


 ヴィクターが処刑されたあの日、私の運命は大きく動き出した。


 処刑台の上で、冷たくも決定的な刃が下ろされ、彼の存在は永遠に断絶された。


 王家を倒し、理想の正義を掲げた彼の死は、聖女と呼ばれた清らかな時間を終えて。かつて私が夢見た「王妃」としての未来の始まりとなった。


 民衆の間では歓喜と祝福の嵐が巻き起こる。


 私は遂に王妃としての栄光を手に入れた。


 黄金の紋章が額に輝き、聖なる魔力が私の身体を包む。


 宮廷は私を、民を導く救世主として称え、かつての聖女の分家と言われた者たちを退けてこの場に立つことができた。


 一夜にして崇高な存在へと変貌したかのように語られた。


 あの日、私はすべてを「叶えた」。


 しかし、夢というものは、必ずしも希望だけをもたらすわけではない。


 妖精たち、かつて私に微笑みかけ、導きの言葉を囁いたあの存在たちが、再び現れたのだ。


 その夜、宮廷の闇夜を背に、私の部屋の窓辺に三匹の妖精が集い、薄明かりの中で浮かび上がった。


 ルゥ、ミィ、ネィ


 彼らは、私の運命を見定めるかのように、冷たく、そして狂おしいほどの美しさをたたえた。


『君は、聖女として君臨することを願った。民を救い、王妃として未来を築く。それが君の夢だよね?』

『でも、その夢は、叶ったはずなのに、次第に輝きを失っていく。君が頂いた栄光は、すぐに闇に呑まれる運命にあるんだよ』

「ああ、美しい。悲しさとはどうしてこんなにも美しいのだろう』


 その声が、未来の凍てつく真実を伝えるかのように、私の心に突き刺さった。


 最初は、あの日の歓喜と希望に包まれ、聖痕が私の額に宿る光景に、胸を躍らせた。しかし、時間が経つにつれて、宮廷内の評判は次第に変わっていった。


 民衆は、私をかつての夢の象徴として讃えるどころか、裏切りと破滅の象徴として嘲笑し、冷たく罵るようになった。


 新聞や噂は、ヴィクターが掲げた正義の名のもと、私の存在を断罪するかのように伝え、かつて救いのために戦った私が、今や民衆の前でただの堕落した存在となったと断じた。


 ヴィクターこそが正義だったのだ。


 新しい王家は、腐っている。


 冷たい夜、宮廷の大広間で、私の聖女としての栄光は完全に剥ぎ取られた。


 聖印は消え、聖なる輝きは霞み、民衆は私を、ただの「売女」と呼び、過去の英雄ヴィクターの正義こそが真実であったと断じた。


 その瞬間、妖精たちの囁きが耳に残る。


『君の願いは、叶ったはずだ。しかし、約束された幸福は、あっという間に壊れ去る。君が抱いた光は、最も美しい破壊へと変わるのさ』


 その言葉が、私の心に深く刻まれた。


 私が自ら選び、契約して手に入れた力は、すべてが裏切りと絶望の代償に過ぎなかった。私の夢、私の願いは、冷たく、無慈悲な現実の中で粉々に砕かれ、取り返しのつかない闇と化した。


 民衆は、私を讃えるどころか、かつての聖女の夢が、すべて破壊され、無惨に堕ちた存在として記憶するようになった。


 王妃としての地位は、ただ権力闘争の駒に過ぎず、私が救おうと願った民は、今やただ冷酷な正義の犠牲となった。


 全てはヴィクター様がもたらした運命の結果。


 私が築いたはずの希望の未来は、彼の死と共に断罪され、妖精たちの冷たい導きにより、永遠の破滅へと転じた。


 あの日、私はただ一心に「聖女になりたい」と願った。だが、夢は叶ったその先。


 ヴィクターを殺したことで、全てを閉ざしてしまった? そんなバカなことがあるはずがない。


 だって、私は私の力で聖女になり、王妃になるためにヴィクターを殺したんだもの。


 私の内側で燃え上がった希望は、今や消え失せ、ただ無情な虚無だけが残った。


 民衆は、私の名前を記憶することなく、嘲笑と侮蔑の中で、かつての私を伝説として片付ける。


「ああ、英雄殺しの売女だろ? 英雄に言われない罪を着せて、王様に取り入った女だ」

「いたいた、結局弱い王家は、すぐに取り潰されて、成り代われていたな」

「英雄ヴィクターが生きているばこんなことにはならなかったのにな」


 そうなのだろうか? 私はどこで間違えたのだろう。


『君は間違えていないよ。君は最初から聖女と王妃になるために真っ直ぐに進んでいた』

『そうそう、だけど、君は夢を叶えたんだ』

『その先にあるのは破壊だよ。おめでとう。君はそこまでたどり着いたんだ』


「破壊? どう言うことよ! 私は聖女よ。王妃よ!」


『違うよ。哀れな道化だよ』

『そうそう、聖女でも、王妃でも無くなった君は、ヴィクターのように処刑されることもなくただ、殺されて終わり』

『歴史にも残らないしょうもない存在だ』


「私の夢は、すべて失われた……」


 その一言すら、もはや私の胸を震わせることはなかった。


 そして、私の全ては、永久なる闇の中に葬られる。


 私が願った聖女としての未来は、もはや誰の記憶にも残らず、ただ破壊され、絶望の象徴として、後世に嘲笑されるだけ。


 未来の王国は、冷徹な正義の名のもと、全ての希望と夢を断罪し、私の存在は、ただの堕落した記憶として、闇に消え去ったのだ。


 これが、私が選んだ運命の代償。


 そして、民衆の嘲笑の中で、私の夢も命も永遠に失われた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?