《sideリュシア》
「良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い」
最高よ! 最高に厨二病ってるわ! ご主人様!
あなたが抱える絶望、憎悪、猜疑心、全てが私の糧になる!
あぁあぁあぁあぁあぁあぁもう、どうしょうもないほどに体が火照って止められない! こんなにも気持ちいいなんて! 選んで最高よ!
ふふ、あなたは私を従えたと思っているでしょうけど、異質な魂に惹かれて選んだはの私。
「最高の逸材を見つけてしまったわ! 黒くどこまでも底が見えない仄暗い深淵のような悲しみ。ご主人様、あなたは人生を終わらせるような絶望を知っているんでしょ?! 未来で処刑されるってどれほどの絶望なのよ! ふふ、そうよ、確実にご主人様は絶望を知っているのね!」
ヴォルフガングを殺したご主人様の満足した顔が、そして、その後に訪れるどうしようもない虚しさが激しく私の中でエネルギーとして蓄積されていく。
もっとご主人様が望むことを叶えてあげよう。
その先にはきっと、私の望む答えが待っているはずだから。
目の前でご主人様が剣を収め、静かに夜空を見上げている。
その横顔には満足感と、深い悲しみが混じり合った複雑な表情が浮かんでいた。
私はそんな彼の姿を眺めながら、内側から込み上げてくる喜びを抑えきれなかった。
「良い……いいわ! 感じる、とても素敵よ、ご主人様!」
思わず口元を手で押さえながら、全身で彼が生み出す負の感情を受け止める。その感情の波は、強烈な憎しみ、後悔、悲しみ、そして自己嫌悪。
そのすべてが混ざり合い、私を包み込んでくる。
「ああ……たまらない。この甘美な味わい……こんなにも濃厚だなんて!」
私は胸を抑え、恍惚とした表情を浮かべてしまう。
彼の闇は、私の内側にじわじわと染み込んでくる。
それはただの負の感情ではない。ありえないほどに積み上げられた絶望と憎悪、そして希望と正義の狭間で揺れる彼の魂そのものが、私を満たしてくれるの。
「私のご主人様は最高よ。二人の相性は完璧ね!」
ヴィクターが振り返る気配を感じた私は、軽く微笑みながらその場を離れた。彼には見せられない顔をしていたからだ。
足元には、先ほどヴィクターが叩き折った剣の魔族が転がっている。
その漆黒の刃は、すでにその輝きを失い、ただの破片のように見える。それでも、微かに魔族の気配が残っていた。
私はしゃがみ込み、そっと剣の欠片を拾い上げた。
その瞬間、剣からかすかな声が聞こえてきた。
「小娘……貴様、何をするつもりだ……」
「ふふ、偉大な魔族さん。あなたの負けよ」
「ぐっ……俺様が……負けるだと……! この俺様が……!」
私は剣の欠片を愛おしげに撫でながら、にやりと笑った。
「アハっ! もうダメよ。だって、あなたは私が食べるんだもの!」
「なっ、何を言っている?! まさか、貴様も魔族なのか!? 同胞を食らうのか?」
「同胞? あなたも分かっているはずよ。私たち魔族に同胞なんていないわ。それにあなたのような未熟な魔族は私にかける価値すらない」
その瞬間、私は魔力を手に集中させ、剣の欠片に触れた。
断末魔の叫びが剣から響き渡る。
「やめろおおおおお――!」
剣の欠片が私の手の中で黒い煙となり、その煙が渦を巻きながら私の体に吸い込まれていく。その力を取り込むたびに、体の中に魔力が充満していく感覚が広がる。
「アハっ! ああ……やっぱり最高ね。魔族の力を吸収するこの感覚、たまらないわ。まずは一つ」
私は立ち上がり、ご主人様の方を振り返る。ヴィクターはまだ夜空を見上げたまま、剣を握りしめて動かない。
「ご主人様……その心の中は、どんなに暗くて美味しそうなのかしら? いつかあなたも食べてあげる」
そう呟きながら、私は彼の横に立った。
「ご主人様、次の行動はどうするの?」
彼は短く息を吐き、静かに言葉を返した。
「……もっと、もっと強くなる。裏切り者たちが魔族に操られていたなら、全ての魔族に問うまでだ」
その言葉を聞いた瞬間、私はまたしても彼の感情が渦巻くのを感じた。
「怒り、憎しみ、後悔、悲しみ……そして覚悟――こんなにも複雑で濃厚な感情を抱えている人間、そうそういないわね」
私は静かに微笑みを浮かべながら、彼の横顔を見つめた。
(ご主人様、もっともっとその闇を深めてね。そのすべてを、私が糧にしてあげるから)
彼は何も言わずに歩き出した。私はその背中を追いながら、小さく笑う。
あなたが未来を変えようとするたびに、きっともっと深い闇を抱えることになる。そして、その闇が私をさらに強くしてくれるのよ。
「ねぇ、ご主人様、あなたのしたい事を私は手伝うわ」
「どうしたんだ急に?」
「ふふ、ご主人様の強さに惚れただけよ」
月明かりの下、私たちは森を抜けて進む。
彼の闇が広がるほど、私はお腹も胸もいっぱいに満たされていた。
それが魔族としての本能だと知りながらも、私はその感覚に溺れていく。。
何よりも私の心は、ご主人様の虜になってしまった。
「最高の絶望を抱えたご主人様。あなたの絶望を全て私が喰べてあげる。その先に残るのは虚無かもしれないけど、あなたはきっとそれでいいと言ってくれるわよね? ふふ、楽しみよ」
私は神々しい月の光を浴びながら、未来を夢見て足取りを軽くする。
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あとがき
どうも作者のイコです。
一話目完結です!
いかがだったでしょうか?
楽しんでもらえていると嬉しいです。