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第12話

 今以上に強くなるためには、強者との戦いが必要になる。


 そのために……全盛期のヴォルフガングと戦う。


 魔族であろうとなかろうと、ヴォルフガングが強者である以上は、今の僕にとって、強くなるための踏み台に必要な人物だ。


「ヴィクター様、本当に行かれるのですか?」

「ああ、ドイルはついてこなくてもいいぞ」

「いえ! ヴィクター様に従います!」

「好きにしろ」


 僕はヴォルフガングに会うために、冒険者ギルドに足を運んだ。


 アースレイン侯爵領の街は、王都に次に大きな街だ。


 王国全土に支部を持つ冒険者ギルドは、魔物を討伐する存在として活躍している。


「ご主人様が冒険者ギルドに行くなんて、少し意外ね」


 リュシアが横を歩きながら、楽しそうに口を開く。エリザベスも僕のテイムモンスターとして、扱われて同行していた。


「何が意外だ?」

「だって、ご主人様は貴族でしょう? それも上位貴族であるご主人様が冒険者にならなくても、剣の訓練や実践を積む場はいくらでもできるのに……」


 彼女は興味深そうに僕を覗き込む。


 見た目は美少女であるリュシアを連れていると目立ってしまうが、彼女は妖艶に微笑む。


 冒険者ギルドに向かうのは、ヴォルフガングと接触するためだ。


 だが、同時に冒険者としてギルドに登録する。


 ヴォルフガングを喰らった後は、もっと実践の情報が集まりやすい冒険者ギルドを有効活用する。


「冒険者など、ヴィクター様がならなくても」

「ドイルは不満か?」

「冒険者とは、この世界における、『魔物専門の殺し屋』です。ヴィクター様には相応しくはないと思います」


 物怖じしないでドイルがハッキリと告げる。


 こういう真面目なところは嫌いじゃない。


「この魔物が蔓延る世界で、魔物の討伐と素材の収集を行っている。冒険者は、実践を一番経験している者たちだ。魔物はこの世界の至るところに存在している。町や村を脅かす厄介な存在だ。なら強くなるために、必要なことを僕はするだけだ」


 貴族が治める領地では、魔物の討伐は必要不可欠な業務の一つとなっている。


 騎士を雇って騎士団が巡回を行っているが、それでは人手が足りないため、冒険者ギルドを各地に配置して、魔物討伐の専門家として報酬を支払っていた。


 魔物の素材は、魔道具の材料に使われ。

 冒険者たちの武器や防具、薬品などの貴重な資源として利用されている。


 貴族たちとしても、高ランクの魔物の素材を使った、武器や防具をコレクションしている者も多い。


 つまり、冒険者は討伐と同時に素材の供給役としての役割も担っている。


「もしも、僕がアースレイン家を追い出されても、仕事として学んでいて悪くはない」

「ヴィクター様! アースレイン家を出られるのですか?!」

「もしかしたらだ。実際に、長男と次男がいる以上は身の振り方は考えないといけない」


 アースレイン家に固執する必要はない。


 真実を突き止められるなら、どんな方法でも構わない。


「冒険者はランクによって、貴族と同等の扱われる」

「確かにAランク以上の冒険者は、貴族と同等に扱うように、王家からのご命令ですが……」


 冒険者には階級が存在し、実力に応じてランクが分けられている。


 Sランク:最上級の冒険者。国単位で依頼を受けることもある。


 Aランク:精鋭クラス。大規模な討伐任務を任される。


 Bランク:熟練の冒険者。難易度の高い依頼もこなせる。


 Cランク:一般的な冒険者。安定した実力を持つ。


 Dランク:新人卒業クラス。中級の依頼も受けられる。


 Eランク:駆け出しの冒険者。低級の討伐や採取が中心。


 Fランク:初心者。簡単な雑務をこなす。


 過去の僕は、このギルドで冒険者としての経験を積み、実戦を重ねながら力をつけた。そして、その中でヴォルフガングと出会い戦いを学んだ。


「ここだな。いくぞ」

「かしこまりました」


 町の中心にある大きな建物、それが冒険者ギルドだった。


 石造りの頑丈な作りで、外には掲示板があり、依頼書が貼られている。


 中に入ると、ざわめきと酒の匂いが混ざり合った独特の雰囲気が漂っていた。

 奥には受付カウンターがあり、女性の受付嬢が数名、忙しそうに対応していた。


 カウンター前には冒険者たちが並び、それぞれの依頼を申し込んでいる。


「随分と賑やかね」


 リュシアが周囲を見渡しながら呟く。


「黙れ」


 無骨な男たちが笑い合い、奥の方では椅子に座りながら酒を飲んでいる者たちもいる。昼間から酒を飲む風景は冒険者らしい。懐かしい光景だった。


 僕はカウンターへ向かい、受付の女性に声をかけた。


「冒険者登録をしたい」


 受付嬢は僕を見て、少し驚いた様子を見せた。


「お若い方ですね……貴族の方でしょうか?」

「ああ、アークレイン家のヴィクターだ」

「執事のドイルです」

「リュシアよ」

「ワン!」


 僕に続いて、三人が応える。


「四人パーティーですか?」

「……ああ」


 否定するのも面倒なので、肯定する


「アークレイン様!!!」


 僕の名前に気づいた受付が大きな声を出す。


 冒険者ギルドの中が静まり、こちらに視線が集まった。


「それが、どうした? 貴族は登録できないのか?」


 僕は受付嬢を見下すような口調で問いかける。 


「いえ、大丈夫です! こちらの登録用紙に名前、年齢、得意な武器やスキルを記入してください」


 僕は用紙を受け取り、迷いなく記入していく。


 名前:ヴィクター・アークレイン

 年齢:12歳

 得意武器:剣

 スキル:闘気操作(初級)、剣術(初級)、無属性


 書いて提出した。


「ありがとうございます。それでは、基本的な身体能力を確認するための実技試験を行います」

「試験?」

「はい! これは皆さんに受けていただいております! 冒険者は魔物と戦う危険な仕事です!」


 貴族ということに遠慮はしながらも、仕事を全うしようとする受付嬢は素晴らしい仕事だ。前回、冒険者登録を行った時はどうだったのか忘れていたので、そんなこともあるのかと思い直す。


「実技は、基本的な身体能力を確認するためのものです。登録だけでなく、実力に応じてFランクかEランクかを決定します」

「他のランクからは始められないのか?」

「いえ、試験を受ければ可能です。冒険者が実力が全てですから。自信があるということですか?」


 怪訝な表情を浮かべる受付嬢に、俺は不遜な笑みを浮かべる。


「今、この場で一番強い者は誰だ?」

「えっ?」

「そいつと戦わせろ」


 領主の子息がバカなことを言い出したというような顔をされる。


 そんな受付嬢に対して、冒険者ギルド内は殺気立ち始める。


 それもそうだろう。自分たちの誇りである強さを、バカにされたのだ。


「貴族様でも、ここは冒険者ギルドであり、発言が簡単に許される場所ではないとご存知ではないのでしょうか?」


 先ほどまで狼狽えていた受付嬢が、殺気を飛ばしてくる。面白いことだ。


「もちろんだ」


 そんな受付嬢に向けて、僕は邪悪な笑みを浮かべた。


「おいおい、貴族の坊ちゃんよ。俺様が相手してやるよ!」

「フラルさん! Cランクのあなたが!」


 現れたのはムキムキマッチョなおっさんで、いかにも冒険者という風貌をしている。


「僕は構わない!」

「なっ!?」

「よ〜し、いい度胸だ! 裏の訓練場へ来い!」


 僕はフラルと呼ばれたCランク冒険者に従い、ギルドの奥にある訓練場へ向かった。


「勝手に決めないでください!」


 ヴォルフガングに接触する前の肩慣らしには丁度いい。

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