この世界で強くなるためにはいくつかの段階を超えていく必要がある。
ただ、闇雲に体を鍛えれば良いというわけじゃない。
闘気を全身に巡らせる。
己の魔法属性に合わせた魔力を知る。
基礎的な身体能力の向上
体を鍛えるのは、内功や魔力を操れるようになってからでも遅くはない。
己の力を正しく知ることで、強くなる方法も変わってくるからだ。
「なるほど、つまり、闘気と魔力、どちらが向いているのか知ってから鍛えるのですね!」
「そうだ。全てを充実させて、能力を向上させることをレベルアップという」
「レベルアップ!」
ドイルからもっと強くなるためにはどうすれば良いのかと質問を受けたため、強さを整理をするために、言葉にして説明をしていた。
「そうだ。三つの闘気、魔力、身体能力を全て第一段階として鍛え上げて充実させれば、第二段階の扉を開くことができる」
「私は闘気と身体能力には自信があります。ですが、魔法の属性である大地の魔法はまだ上手く使えるかと問われれば難しいです。魔力の操作はあまり得意ではありません」
誰しも闘気、魔力の得手不得手が存在して偏りが生まれる。
闘気、魔力、身体能力。
三位一体で心技体と言い換えることもあるが、全てが整えなければ、本物の強者には勝てない。
「魔法は発動もできますが、実戦で使うには頼りなく。どうしても闘気での戦闘に頼ってしまいます」
ドイルは口惜しい顔をするが、それが普通のことだ。
僕は無属性だったからこそ、外へ放出する魔力が使えなかった。
そのため闘気と同じく、魔力を肉体強化や、自己治癒力に使うことで重点的に鍛えた。
無属性だったからこそ、闘気と魔力を融合させることができたのかもしれない。
外部からの魔力を受け付けない体質であったために、他者から受ける回復魔法などの効果も受けられなかったために必要にかられて行ったことだ。
全てを自分自身の闘気と魔力でやらなければいけなかった。
「苦手を克服して、己の基礎能力を向上させる、反復して自分に合った戦い方を身につけなければ強くはなれない」
「自分に合った戦い方ですか」
ドイルは、年齢的に僕よりも二つほど年上で、体格もいい。
闘気と土属性で、十分に強くはあるが、さらに強くなろうと思えば、己に合った武術を身につける必要がある。
このアークレイン家は、最低でも執事は第三段階まで強さを手に入れている者が多い。
そして、当主である父は六段階に到達していると考えられる。
剣神と呼ばれた僕で、九段階だった。
「生まれた土地によっても、属性が偏るのは知っているか?」
「生まれですか?」
「そうだ。この国は、四つの領土に分かれている。中央区と呼ばれる王都を中心に、北方、南方、東方、西方の四つの大領が広がっている」
中央区には王家が君臨し、その周囲を取り囲むように四つの上級貴族が君臨する。
剣神の家系であるアークレイン侯爵家。
聖女の家系であるカテリナ公爵家。
賢者の家系であるシュバイツ侯爵家。
魔導の家系であるフェルディナンド侯爵家が領地を統治している。
その下に伯爵家、子爵家、男爵家と続き、貴族社会は成り立っている。
つまり、この王国は王家と四大貴族が支配する構造であり、その他の貴族たちはその配下に位置する。
三大侯爵家の影響力は大きく、実質的に国の統治に関与できるほどの力を持つ。
「勇者とその仲間たちの血脈ですね」
「そうだ。僕が生まれたアークレイン侯爵家は、剣神の家系と呼ばれ、代々優れた剣士を輩出してきた一族だ。火と風の属性に生まれる者が多く。闘気も他の家よりも多いと言われている」
「私の母がフェルディナンド侯爵領の出身だったために、土属性なのですね。ですが、父はアークレインの者なので、私は父に似て闘気の方が多いというわけか……」
単純にそういう話だけではないが、それでも親子として継承されるという話はあり得るだろう。
だが、僕は無属性として生まれ、両親のどちらにも似てはいなかった。
隔世遺伝とでも言えばいいのか、初代剣神アースレインは無属性だったという。
「ある程度、強さの知識は理解できたか?」
「はい! ありがとうございます! 自分に向いている闘気を中心に戦い方を模索してみたいと思います」
「ああ」
ドイルへの講義を終えて、僕は体を動かすために森へ向かう。
剣を振っていると、木陰から気配を感じた。
「ふふ、ご主人様、今日も楽しそうね♪」
黒いローブを纏い、金色の瞳を輝かせながら、俺の鍛錬をじっと眺めている。
「何だ?」
「ご主人様には、この世界がどう見えているのかしら?」
「……」
俺は剣を収め、リュシアを睨んだ。
こいつは魔族だ。何を考えているか分からない。
「さっきの話、私も聞いていたわ。ねぇ、魔族が操っているかもしれない。王家が頂点に立つ、この四大貴族が支配をどう思っているの?」
こいつは未来を知っているのか? 僕がそれらを壊すために反乱軍を指揮して、王家を討った。
その結果、僕は断罪されてしまう。
「その下に伯爵、子爵、男爵が従う。そして、貴族に属さない者たちは平民として生きるしかない。あなたはこの世界の仕組みを変えたいの? それとも、利用したいの?」
「……そんなこと、どうでもいい」
俺は森を見渡しながら答えた。
リュシアは恍惚とした表情を浮かべた。
「でも、ご主人様。あなたは気づいているのよね? 貴族社会は単純な構造ではないって」
貴族社会の構造は、一見すると単純だ。王家が支配し、その下に四大貴族がいる。だが、実際には権力闘争が常に渦巻いている。
例えば、僕のいたアークレイン侯爵家とシュバイツ侯爵家は同格の貴族だが、その実態は異なる。
シュバイツ侯爵家は王家に近い立場を維持し、僕を裏切ったレオ・シュバイツを筆頭に、常に権力を狙っていた。
一方、カテリナ公爵家やフェルディナンド侯爵家は、独自の影響力を持ち、王家と一定の距離を取っている。
貴族社会は、見かけ上の序列とは異なる力関係で成り立っている。
そして、僕がかつて信じた者たちは、すべてこの権力の中にあったのかもしれない。
「僕は動くだけだ。まずは、力を取り戻す。全てはそれからだ」
あと半年で、アリシアがこの家にやってくる。
全てを始めるまで残り半年で出来ることをする。
僕は再び剣を構えた。
貴族社会の構造を知っていようがいまいが、僕の目的は変わらない。
ただ、僕が利用するのか、されるのか、それだけの違いだ。
剣を振るう。風が吹き抜ける森の中、俺の鍛錬は終わることはない。