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第6話

 ターゲット正面ホット。武装選択『AIM―120』。


「何をする気じゃ」

「決まってるだろ。あいつをぶっ倒す」

「無茶だ! 相手は黒炎龍だぞ!」


 黒炎龍は西の最奥のダンジョンにいる魔物。


 他の魔物や人間を狩ってマナを集めるためにダンジョン外へ出ることはあるが、奴は先週それを終えている。


 マナとは魔法を繰り出すための源で、魔力はマナによって生み出される。


「黒炎龍だろうが爆炎龍ろうが関係ねぇ! あたしとこいつなら」


 憂い一つ見せることなく、アンナはスロットルを押し込む。


 クルーミも黒炎龍の魔力が近くなっていくのを感じる。


「シュートゥ! シュートゥ!」

「スレッジホーク1、狐がコンコンっと! フォックススリー!」


 だが機体から灰色の煙が分離した途端に右へ傾いた。


 あれだけ嘯いて怖じ気づいた、なんてことは多分ない。魔力は感じないが、恐らくこれが彼女の武器だ。


「今のはなんじゃ?!」

「ミサイルだ」

「ミサイル?」

「AIM―120『アムラーム』。アクティブレーダーホーミングのミサイルだ。目標に近づくとミサイル本体のレーダーが追尾して命中する。現代の空中戦じゃメタな武器だぞ?」

「いや言ってる意味がまるで分からんぞ・・・・・・」


 未知の単語が飛んできてチンプンカンプンだ。


 そして遠くで星より明るい閃光が上がる。


「スプラッシュワン! ひゃっはぁぁぁ! どうだこのクソトカゲ野郎! あぁさいっこう」


 落とした時の笑みが薬物中毒者みたいに決まってた。コワッ・・・・・・この人間怖い。


 魔力の反応が消える。黒炎龍が落ちた何よりの証左だ。


 あのダンジョンは並の冒険者パーティーでは最奥は愚か低層で全滅する難易度を誇る。それの最深部を守る龍となれば、普通の人間ではまず太刀打ちできない。


 何者なんだこの女。クルーミは訝しむ。


「ビンゴ・・・・・・ビンゴ・・・・・・」

「燃料もそろそろヤバいな。スレッジホーク1、ヒュエルビンゴ。RTB」


 二人はそのまま帰投コースを進んだ。




 屋敷ではメルヘン家の当主『パパイ・メルヘン』は書斎を右往左往していた。


「あぁどうしたものかどうしたものか」


 メイドも入れず、慌てふためいているのには理由があった。


 それは二人の可愛い娘、アンナとレイナが婚約を破棄されてしまったからである。


 寝耳に水。急転直下の展開だ。いや元々、オムレットとフォンマフィンの両家から出た話だし、断られる謂れなどないはずなんだが。


「おーいオヤジー入るぞー」

「ぬぉあ?! あ、アンナ!」


 ドンと開いた扉で肩を竦ませる。


 書斎には我が物顔で入ってきたアンナと、後を粛々と続いてきた慎ましやかなレイナがいた。


 まさかアンナの素行がバレたとか? いやないない。学校の様子を逐一メイドに報告させているが、淑女として振る舞っていると言っていたし。


「ひ、人の部屋に入るときはノックくらいしなさい」

「えぇー良いじゃねぇかよーここあたしの家なんだし。それともアレか? またお付きのメイドさんの事を想像してマス掻いてたのか?」

「こ、コラもう。はしたないこと言わない!」


 というかなんで照れてるんだ私! あらぬ疑いを掛けられるでないか!


「あーそれと、なんかこっちにドラゴン来てたらしいから撃退しといた」

「ドラゴン?」

「いやな、うちのクラスメイトと夜間飛行と洒落込んでたら、なんか魔力を感じたーとかなんとかで。こっちに来てたからついでに落としといた」


 パパイは何のことかと知らない顔をしていた。


「黒炎龍の魔力だったわねアレは。確かどのルートに進んでも戦う結構強いボスよ」

「そいつ、確か魔王城に向かう途中のダンジョンの最奥にいるって奴だろ? なんで外に」

「マナを蓄えるために外へ出て人間とか魔物を捕食するのよ。勇者候補の一人がそれで両親を失ってるって設定、あったでしょ」

「あ、あのさアンナ。まさかそれを倒したんじゃないだろうね?」

「倒してきたぞ。墜落した座標に何人か執事を向かわせてるけど」


 いやぁ、うちの娘って本当怖い。


「はぁぁぁぁ? 一人で?! アンナが?!」

「戦闘機出したんだから普通に勝てるだろ。何を今更驚いてるんだ」


 でも逞しく育ってくれてありがとう。お父さん嬉しい。


「しかし怪我がなくて・・・・・・ほんどによがったぁぁぁ!」

「な、なぁレイナ。うちのオヤジ、なんか情緒おかしくね今日?」

「いつもの事でしょこの親馬鹿っぷりは。まぁいいわ。ほい!」


 レイナは容赦なく、スリッパで頭を引っぱたいてきた。


「おほん。本題に入ろう。今日、婚約破棄されたんだってね」


 ちょうど二人も揃っていることだし聞いてしまおう。


「よくご存じで。やっぱ噂って足がはやーい」

「で、何をしたんだ?」

「何もしてねぇよ」

「何もしていない? ではなぜ婚約を破棄されたんだ?」

「夜伽がーなんとかって。まぁ端からあの青臭いガキは趣味じゃなかったんだがな」

「私も俺様系苦手」


 夜伽……夜伽夜伽。


 つまりこの二人が他の男と付き合って、しかも熱い夜を過ごしたってことか! 


「うちの娘を傷物にした馬鹿はどこだ?! 今すぐ切り刻んでやる!」

「なーに殺気立ってんだこのオヤジ。前の人格戻ってんぞ」

「お父さんは許さんぞ! 寝取られ反対!」

「父上。断じて私たちは夜伽などしておりませんよ」


 もう一発おまけに引っぱたかれる。そろそろ後頭部が痛いので止めて欲しい。


 だがレイナはしてないと言ってるし、アンナは……こいつは見かけによらず遊んでそうな性格しているけど多分ない。


「恐らく、メルヘン家を貶めるための嘘ではないかと思います。確証はありませんけど」

「我が一族を貶めるだと?! 一体なぜ」

「アホかオヤジ。うちはマナ石の採掘が出来る鉱山をいくつも持ってんだぞ。それが欲しい奴なんか貴族でもうじゃうじゃいる」


 マナ石とは魔力を生み出すマナを秘めた石で、魔道具を作るには必須のアイテム。


 奥深い地下やダンジョンの中、マナ石が眠る鉱山でしか採掘することができない。しかも固い地盤を掘り抜くにはレベルの高い採掘魔法が必要になる。


「だ、だがうちは冒険者のギルドだって運営しているし」

「んなもんついでぐらいにしか思ってねぇよ。それに黒炎龍がこっちに来てたのも、偶然じゃなさそうだしな」

「ど、どどどどどどどうすれば!」

「急くな騒ぐな慌てるな。あたし達に任せろ」


 サムズアップするアンナ。心強い一方で、私って情けない。


「そう暗い顔しなさんなオヤジ。ドラゴンを嗾けた奴は必ず息の根を止めてやるから」

「物騒なことしなくてもいいんだぞ。平和的にな」

「だってさレイナ」


 レイナは両手で「さぁ」と仕草をする。ほんと平和的にだぞ。


「まどろっこしいしまとめて爆撃すっか」

「流石に証拠は掴めよ!」


 アンナはツッコまれ、渋々証拠を探すことに同意した。

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