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第4話

 鷲か鷹か。


 これってきっと、間違えたらもう滅茶苦茶に好き放題される奴じゃないか? と考えてしまう。


 せめて優しく・・・・・・って、端から我が間違える前提ではないか!


「さぁさぁ、どっちどっち」

「やっぱ鷲だろ? 厳つくて巨大で」

「鷹に決まってるわよ! あんな鈍重な奴なんかより、軽やかで踊るように飛ぶ鷹に決まってるわ!」

「はぁ? そんな速く飛べないくせに」

「今時、速度は重要じゃないんですぅ! ね、どっち?」


 ・・・・・・これは間違えるとか以前の問題ではないか?


 訝るクルーミに、二人の視線はご馳走を前にした恐ろしい目から期待を寄せる眼差しに変わっている。


 多分アレか。ドラゴン派かケルベロス派かって質問みたいな、そういうノリじゃろう。


 鷲か鷹か・・・・・・どっちも同じ猛禽類じゃがイマイチ違いが分からぬ。


 あっそういえば父上が晩年、自分のことを『わし』と言っていたな。アレはそういう意味か!


「鷲じゃ!」

「よぉし! ほらな、やっぱり鷲だろ!」

「へぇ・・・・・・貴方、デブが好きなの」


 レイナの冷ややかな目に背筋が凍る。


「見込みあるなお前! 名前は?」

「我が輩はクルーミイモータル・ブラッドショー! ひれ伏せ人間共!」


 両腕を腰に胸を張って宣言するが、


「クルーミ・・・・・・ってことはクルミちゃんだな」

「木の実みたいな名前で呼ぶな!」

「いいじゃん可愛いし。ってこんなことしてる場合じゃない・・・・・・クルミちゃん行くぞ」

「行くってどこへじゃ?」

「決まってんだろ。鷲に乗るんだよ」

「鷲に・・・・・・乗る?」


 はて、鷲に似た巨大な魔獣なんてものいたか?


 首を傾げるがそんなものをアンナは意に介さない。手を引っ張って足早に屋敷を出て行く。


 そのまま馬に乗せられ、彼女の思うままに連れて行かれていくと・・・・・・・


「なんじゃここは?!」


 およそこの世界では見たこともない場所へ辿り着いてしまった。


 城壁ほどの高さのドームが一つ、二つ、三つと並び、どれも灰色の固い床と繋がっている。


 広い庭の周りを蒼や紅の煌びやかな光が散らされ、真ん中には等間隔で白い線が引かれてる。


「ゴーレムを使役してるのか?」

「魔物なんて居やしないよ。レイナに止められてる。だが、怪物ではあるな。ある意味」


 そして馬はドームの一つの前で止まる。


 アンナの到着と同時に門が開き、


「さてクルミ君。夜伽を始めようか」


 親指が指す先。目が眩みそうな灯りの下には、羽の生えた無機質な何かが静かに眠っていた。


「はて?」


 およそこの世界の物じゃない。この場所もこの何かも。艶も鱗のような模様もなく、しかしドラゴンのような羽はある。


 困惑するクルーミ。


「言葉も出ないか」

「なんだこいつは?! ドラゴン・・・・・・じゃないな。マナも感じないし、生物じゃない」

「そりゃ生き物じゃないからな」

「なんじゃと?!」

「こいつはF―15EX、あたしのイーグルだよ。さ、詳しい詳しいこいつの話は乗ってから、こいつに着替えたまえ」


 と、アンナはいつの間にか見慣れない緑色の服を用意していた。


 それに着替えると、今度は紐を束ねた装具を股下から巻かれる。くすぐったい。


「よしこれでオッケー。んじゃ優雅な空の旅に連れて行ってやるよ!」

「空・・・・・・空ぁ?!」


 驚嘆がこの部屋中に響く。


 しかし有無を言わせず、クルーミはアンナの後ろに乗せられた。


補助動力APU始動、ライトエンジンスタート。警報装置テスト」

「ワーニングエンジンライト、ワーニングエンジンレフト、ファイアエンジンライト・・・・・・」

「しゃ、しゃべった?!」


 こいつしゃべれるのか。


「あははは。こいつしゃべれるんだよ。会話してみるか?」

「お、おおう。それじゃあ、我が輩はクルーミ」

「チャフフレア!」

「まだ自己紹介してる途中じゃろ。なんと言ってるんだ?」


 聞いてみるが、アンナはパンパンと手を叩いてる。


「なんと言ってるんだ!」

「チャフ! アルチチュード! プルアップ!」

「ぽーあっぷ?」


 追い打ちに腹をよじって笑うアンナ。クルーミは頬をむくれた。


 多分しゃべれてない。というより、これはきっとアンナが何かしているのだ! 揶揄われてると気づく


「もういい! 降りてやる!」

「ごめんって! 今降りたら危ないから! はい、お行儀良く座る! ピン!」


 思わず釣られて淑女のように綺麗に座ると、屋根がしまった。


「あっ釣られた!」

「マスターコーションライト消灯。ちゃんと踏ん張れよクルミちゃん」


 アンナの笑みがちょっと邪悪だった。


 このときは分からなかった。まさか、世界が逆さまになるなんて。

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