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第3話

 高らかに掲げられた中指。


 アレが人を蔑む仕草であることは分かった。


「こっちが下手に出てりゃ調子に乗りやがって・・・・・・レイナの許嫁共々、ケツに一発ぶち込んでおくべきだった」

「あんなののどこが良いのよ。というか、アンナは様式美を全く分かってないわね。ああいうのはじっくり調教しての雌お」


 えぇ・・・クルーミちゃんドン引き。口を開けば汚い単語がズバズバと飛び出してくるんだけど。それにアンナよりもレイナの方が言ってることグロいし。


 ほんとにこいつらが預言に居た“欲深い人間”なの? 我が見せられてるの、教育に悪いとかそういう次元越えてるんだけど。


「んで、そっちさんの見解はどうなのよ」

「主人公を虐めなくても婚約破棄のルートは変えられない。すると従来通りなら魔王軍堕ち破滅ルートね。あ、プレイヤー側からすると正ルート」

「はぁぁぁ勘弁してくれよ。あたしはごめんだぜ。聞いた限りだと幹部クラスに就職して魔物達をしながら魔王とかいう羽生えたロリの世話しなきゃならんのだろ? 転生してまで中間管理職なんかしたかねぇ。楯突いたら問答無用で粛正って、生前のブラック企業より酷いぜ」


 肩を竦めるアンナに、レイナは目を瞬かせる。


 ロリ魔王とは無礼な!


 でも奴らはなんの話をしてるのだ? さっきの汚物よりもこっちの話の方が分からない。


「まぁ規定路線っていう可能性は皆無ね」

「というと?」

「そもそも私たちの行動が本家『七人の勇者様』と違う訳だから、従来通りではないのよ」

「なるほど。するとこっからはレイナの知るストーリーでは無くなるわけか」

「えぇ。面白くなってきたわよ」


 目がギンギンのレイナが恍惚な笑みを浮かべる。


「この腐れ乙女ゲーマーめ・・・・・・」

「あら? フライトシュミレーター廃人には言われたくないわよ」

「その言葉、そっくりそのままレイナに返すわ」

「で」

「あぁ。そこで聞いてる奴。はよ出てこい。いるのは分かってる」


 見つかった?! トクンと可愛い音でクルーミの心臓が高鳴った。


 なんでバレたのだ?! マナの反応は消していたし、扉だって元々ちょびっと開いてたとこからしか覗いてない。


 ど、どどどどうしよう! あんな歩く隠語拡声器と腹黒女に捕まったら、いくら魔力あっても勝てる気がせん!


 こうなれば逃げの一択――パンッ!


 小さな爆発で抉れた木の破片が目の前を通る。


「ハズレよアンナ」

「外したんだよ。脅しで撃っても無意味に殺さねぇ」


 アンナが握っていた黒鉄の武器。ボウガンに似た形だが、矢を引く弦がない。


 それに扉の木を一撃で貫通した威力。頭上に風穴が空いていてチビリそうになる。


 魔王の威厳など無かった。足をガクガクに震わせていると、扉が手前に開く。


「見ない顔だな。レイナ知ってるか?」

「こんな奴、本編には居ないわよ」

「お前も知らないのかよ。しっかし青春真っ盛りの女の部屋覗くなんて、思春期の学生か保護者か?」

「いきなり撃つから壊れちゃったわよ。どうすんの?」

「しゃーねぇだろ。曲者は切り捨てろって時代劇でもやってる手法なんだから」


 手に持っていた物をしまうと、クルーミは頬を思い切り叩かれた。


「っぬおわ・・・・・・はぁ、はぁ。さっきのは一体なん・・・・・・じゃ?」


 ロリ魔王に注がれる熱い視線。


 あ、終わった。クルーミはそう思うが、いっそ死ぬなら。


「お前達、力が欲しくないか?」

「うん要らない」

「要らないわね」


 出来るだけ禍々しく邪悪な魔王っぽく言ったのに即答かよ!


 そして二人が目配せすると不敵な笑みを浮かべて迫ってくる。


「や、やめろ! 我は美味しくないぞ!」

「食ったりはしないぜ・・・・・・ただ一つ、たった一つだ」

「な、なんじゃ! 肩を掴むな離せ!」

「そう、一つだけ。とぉっても大切なこと聞かないとねぇ」


 まさかこいつら?! うぅと目を瞑ったクルーミだったが、


「お前、鷲派か? 鷹派か?」


 突拍子もないアンナの問い掛け。


 ・・・・・・覚悟を決めた我、馬鹿みたいだ。

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