「僕、タイヴァー・オムレットは、ここにアンナマリー・ダグラス・メルヘンとの婚約破棄を宣言します!」
「俺、ギリーアス・フォンマフィンは、ここにレイナマリー・ジェネラル・メルヘンとの婚約破棄を宣言する!」
双子の姉妹が示し合わせたかのように婚約を破棄されていた。
廊下を行く生徒達が何事かと視線を向ける中、二人の男児は高らかに言う。
「君たちは婚約者がいながら、あろうことか夜伽に耽っていたそうじゃないか」
「散々俺達を愚弄したメルヘン家のご令嬢が欲求不満の発散にまさか浮気とはな! 恥を知れ!」
学園の入り口でギリーアスとタイヴァーは聴衆へ喧伝するように二人を罵る。
しかし双子の姉妹、『アンナ』と『レイナ』はまるで動じず、
「「そうでございますか。しかし夜伽に耽っていたなどとは、聞き捨てなりませんね」」
「実際に耽っていたのだろう? 夜な夜な屋敷を抜け出していたそうじゃないか」
「勇者候補で主席のギリーアス様にしては早計ですわね」
と金のドリルヘアを揺らして、アンナはほくそ笑む。
「では何をしていたか、その口で説明してもらおうか?」
「勇者候補次席タイヴァー様。いくら頭脳が明晰でも、到底理解が及ばない物でございます」
「僕を愚弄する気か?」
「そんなつもりはございません。ただ、あまりに異質すぎるので」
銀のボブヘアから微笑を覗かせ、レイナは答える。
「まさか口に出来ないほど壮絶なことを?!」
ギリーアスは狼狽え、タイヴァーは吐き気を催したように口を抑えた。
「何を妄想していらっしゃるかは存じ上げませんが・・・・・・レイナが申した通り、とてもお解りになるとは思えません」
「なるほど。しかしメルヘン家のご令嬢二人が婚約破棄されたとなれば、家の名前にも当然傷が付く。学園長にもこのことは報告させてもらうよ」
「メルヘンの名も地に落ちたものだ」
高笑いして去って行く二人。
周囲を取り囲んでいた野次馬達がザワつく中でも、穏やかで淑やかに姉妹は振る舞うのであった。
・・・・・・これはチャンス! 絶好のチャンスではないか!
ざわめきの外野も外野。ほぼバックスタンドと言っても良い場所に、人間に化けた魔王クルーミは居た。
「あの二人。今まさに復讐という欲に狩られた、絶好の人間ではないか」
まさしくモルヒーが預言した通り。
そのために、わざわざ敵地である人間の、しかも勇者を育てるための学園に潜入したのだ。
前を通る生徒達に気味悪がられても、そんなの気にならないほどの好機であった。
しかし、あの妙な落ち着きようはなんだ?
あんなに堂々と夜伽してたなんて晒されて、普通は恥じらいの一つもあろう。なのに、不気味なくらい平静としている。
クルーミは訝しむ。
(きっと表には見せない、どす黒い感情があるに違いない)
そう期待を寄せ、彼女はアンナとレイナに近づこうとしていた。
だがしかし
、
「取り込む隙がない!」
婚約破棄があった朝からお昼休み、放課後に至るまで、全く隙を見せない!
許嫁に捨てられたんだぞ? もっと悲しめよ! なんで平然と授業受けてんだよ! 女の子が人前で泣くんじゃありませんってことか?!
モルヒーの預言を疑ったが、まだ奥の手があった。
「かくなる上は、潜入じゃ!」
学校を出て、豪奢な馬車で帰る二人を追う。
勿論、制服を着てなどバレバレなので、人目のないところで透明化の魔法を掛けた。
くくくっ。学園では平静を装っても、屋敷に戻ればきっと素を見せるはず。我ながら天才的!
魔力で足も速くしているから馬車などには負けん。とアンナやレイナが暮らすメルヘン家の屋敷に辿り着いて、そのまま開いた門を潜る。
勢いそのままに、見つからないよう屋敷の中へ。
巨大なシャンデリアがお出迎えする玄関を抜けて、二人が歩くには広すぎる階段を昇る。
一体、誰が来ることを想定しているんだこの屋敷は・・・・・・魔王城でもこんなに通路広くないぞ。
などと考えながら、ついにアンナとレイナが自分の部屋についた。
けど彼女たちは相部屋なのか? ブレイブ学園は15歳から通う場所だし、自分の部屋を持っておらぬのか・・・・・・ってまさかこの二人!
ぽっとクルーミの顔が紅潮する。透明化の魔法を不意に解いてしまい、慌てて使用人の格好に化ける。
きっと違いない。婚約破棄にまるで動じなかったのは――この二人がちょっとイケない関係になってるからじゃ!
そうと決まれば作戦変更だ。クルーミはニヤけながらも、恐る恐る部屋の扉を開け――
「偉っそうに婚約破棄とか抜かしやがってあのキノコ頭! あんな尻の青いクソガキ、あたしから願い下げだっつーの!」
そこには中指を天井に掲げ、紫色のちょっと色っぽい下着を身に纏ったアンナが悪態をついている姿があった。