「我が名はクルーミイモータル・ブラッドショー! 魔界を統べ、今宵はこの世界も我に下る!
人類よひれ伏せ! 我を崇めよ! 我が軍門に下れぇ!」
玉座に立って皆を鼓舞するは、とぐろの巻いた角が頭からちょこんと伸びる幼気な少女。
禍々しい紫の炎で照らされるその間で、横で見ていた侍女が拍手し賛美する。
「お見事ですブラッドショー様」
「そうだろそうだろぉモルヒー。もっと我が輩を褒めよ!」
「よしよし」
「これ! 頭を撫でるな! まるで私がか弱きおなごのようではないか! でも好きぃ」
撫でれば喜ぶのは見た目相応と侍女である悪魔『モルヒー』は思う。
「これで明日の『魔族会議』は完璧だな! 父上以上の威厳があっただろぉ?」
「はい! その小さな身体から溢れる魔力の渦! あぁ・・・・・・先代魔王様の面影が見えます!」
「小さいは余計だ!」
とツッコみつつ、クルーミは得意げな笑みで頷く。
「魔族が一致団結し、人間達を従属させるのだ。そしてこの世界を我が手に」
「お言葉を返すようですが魔王様。人間たちには魔王様に匹敵する力を持つ者がおります。一筋縄では行かないかと」
「勇者じゃろ知っておる! だからこそ、力を持つ欲深い人間を惑わし、我が忠実な下僕として勇者に差し向けるのだ!」
「な、なんという悪魔的作戦!」
大げさに反応してみるが、クルーミは気づく様子もなく満足げだ。この魔王チョロい。
だがモルヒーも保護者の笑みを浮かべている。この侍女もチョロい。
「よぉしモルヒー! 今すぐ貴様の預言の能力でその人間を探すんだっ!」
「御意!」
指に魔力を込めて窓の形にすると、二人の人間の顔が浮かび上がる。
「ほう。ほほうほう。これは・・・・・・素晴らしい魔力の持ち主です。それに経歴も悪くない」
「なんじゃなんじゃ! 我が輩にも見せてくれぇ!」
「逸材です! この二人はメルヘン家の令嬢・・・・・・勇者を排除するには打ってつけではありませんか!」
「どういうこと?」
「ブレイブ学園に通う名家の嫡子・・・・・・そして近々婚約を破棄され」
モルヒーが言いかけ舌を噛み、クルーミは身体が跳ね上がった。
「何事じゃ何事じゃ?!」
「爆発っ! どこでだ?!」
「爆発じゃと?! まさか勇者か?!」
「分かりません! とにかく魔王様は中で!」
「えぇい我が輩が直々に出てやる!」
「あっお待ちを!」
宣戦布告も無しに我が城へちょっかいを出す不届き者を成敗してくれる。
そう息巻いて出て行ったが、魔王城へ攻撃を仕掛けたと思しき人影はない。
見張りと爆発を聞きつけ出てきたゴブリン兵が、皆クルーミを見て跪く。
「どうなっておる!? 勇者がいないではないか! 誰か状況を説明しろ!」
「狙われたのは城壁の結界術式でして・・・・・・」
「結界だと?! 誰が狙った」
「それが我々にも分からないのです。見張りをしていたら、突然爆発がして」
「火の不始末か?! たばこはあれほど喫煙所でと」
言いかけた時、空で轟音がした。
風船が割れるような聞いたことも無い音。その方を見ると、小さな蒼い光が煌々と遠ざかっていた。
星? 星が落ちてきたとでも言うのか。
「えぇい全く! 世界征服の矢先に!」
クルーミはとことんツイてないと地団駄を踏んだ。
しかしこの爆発が、これから三日三晩続くなんて思いもしなかったのである。