坂本真理は、研究室にこもり、モニターに表示された光の点滅パターンを凝視していた。これまでの調査で得られた情報を整理すると、光の点滅がオクトの行動に直接影響を及ぼしている可能性が高いことがわかった。問題は、そのパターンが何を意味しているかだった。
「ランダムに見えるけど…実際は規則性がある。これを単なる機械の不具合だと考えるのは無理がある。」
モールス信号の可能性
坂本はプログラムを立ち上げ、光の点滅パターンをモールス信号に変換するアルゴリズムを組み込んだ。点滅の長さを「長点」または「短点」としてデジタル化し、順に並べてみる。すると、いくつかの英文字が浮かび上がった。
「‘HELP’…助けて?…本当にオクトがこれを解読したの?」
坂本は驚きを隠せなかった。仮にこれがオクトにとって意味のある信号だったとすれば、誰かが意図的にそのようなメッセージを仕掛けた可能性がある。
照明システムへの不正アクセス
坂本は水族館の照明システムが外部から操作された痕跡がないか確認するため、IT担当のエンジニアに協力を仰いだ。エンジニアがシステムログを解析した結果、最近、システムに異常アクセスがあったことが判明した。
「これを見てください。何者かが遠隔で制御プログラムに侵入しています。」
「侵入…?目的は?」
「明確ではありませんが、このパターンを見る限り、光の点滅を意図的に操作している可能性が高いですね。」
坂本の背筋に寒気が走った。オクトの行動が単なる自然の反応ではなく、外部の影響を受けた結果であるとすれば、これは単なる脱走事件ではなく、何かしらの陰謀が絡んでいる可能性がある。
監視カメラ映像の新たな発見
さらに、坂本は水槽室以外の監視映像を再確認した。すると、新たな映像にオクトが別の通路を進む姿が映っていた。驚くべきことに、オクトはその途中で何かを触手で押し、施設の一部の扉を自ら開けていたのだ。
「まるで道順を知っているかのように動いている…。」
オクトの動きはますます謎めいていた。坂本はこの動きを裏付けるようなさらなるデータを求め、調査を続ける決意を固めた。
オクトの知性と行動の背景
坂本は、オクトの行動を説明するために、生物学的な側面から再検討することにした。オクトは類まれな知性を持つ生物として知られ、状況に応じた高度な問題解決能力を示すことがある。しかし、今回の行動はそれだけで説明するには不十分だった。
「これが単なる本能の働きではなく、学習によるものだとしたら…オクトは何を見て、何を考えたの?」
坂本は同僚の研究者たちとも意見を交わした。彼らの間でも、オクトが光を暗号として解釈し、それに基づいて行動した可能性が議論されたが、明確な結論には至らなかった。
不可解な行動の真相へ
坂本は最後にデータロガーの復元作業の進捗を確認するため、友人の田嶋に連絡を取った。田嶋は壊れたデータロガーからさらに詳細なデータを復元することに成功していた。
「これを見てくれ。オクトの行動データだが、光の点滅パターンに完全に同期している。」
「やっぱり…。でも、これが意図的な行動だとしたら、なぜ?」
そのとき坂本は、オクトの触手が水槽の内壁に残した傷と、触手から分泌された化学物質の分析結果を思い出した。それらが水槽の破壊につながった鍵ではないかと考えた。
「これまでの行動すべてが計画的だったとしたら…?でも、いったい誰が、何のためにこんなことを…?」
坂本の胸には、事件の全貌を明らかにする使命感が芽生えていた。
物語は、オクトの不可解な行動の裏に隠された真相へと徐々に迫りつつあった。