坂本真理は、研究室のデスクに座り、手元のメモに映像から得た疑問点を書き連ねていた。
オクトの異様な動きと照明の点滅パターンの一致
水槽の内壁に残された異常な傷跡
データロガーの記録消失
これらが偶然の産物だとは到底思えなかった。
光のパターンと行動の関連性
まず彼女は、映像に映る照明の点滅パターンを解析することに決めた。
「もしこれが偶然ではなく、オクトが意図的に照明と同期して動いているとしたら…?」
彼女は照明の制御システムを確認するため、水族館の施設管理部に連絡を取った。そこでわかったのは、最近、照明システムに不具合が発生していたことだ。その不具合は、ランダムな点滅を引き起こしていたという。
「ランダムな点滅…いや、本当にランダムだったのか?」
坂本は施設管理部から過去1週間分の照明ログを取り寄せ、点滅パターンを調べ始めた。その結果、点滅にはある一定の規則性が見られることに気づいた。ランダムではなく、特定の周期で光が点滅していたのだ。
データロガーの解析
次に彼女は、壊れたデータロガーの内部メモリを直接解析するため、専門家である友人のプログラマー、田嶋に連絡を取った。
「データロガー自体は壊れてるけど、メモリチップは無事かもしれない。復元できるかな?」
田嶋は、即座に協力を快諾し、坂本のもとにやってきた。彼がデータロガーを分解して内部メモリを抽出し、特殊なソフトウェアでデータを復元すると、驚くべき結果が表示された。
「最後の記録を見ると…光のパターンに合わせてオクトが触手を動かしているデータが残ってる。これって、何かの合図を送ってるようにも見えるぞ。」
「合図…?」
坂本の脳裏にひらめきが走る。もしオクトが光のパターンを読み取り、それに応じて行動していたとすれば、彼が学習能力を活用して自らの意思を示していた可能性がある。
謎の触手痕
坂本はさらに調査を進めるため、水槽の破片を持って顕微鏡のもとへ戻った。触手痕とみられるスライム状の物質を観察すると、そこには通常のタコの分泌物とは異なる化学成分が含まれていることが判明した。
「この成分は…何かの溶解作用がある?」
彼女は水槽の破壊が物理的な力ではなく、化学的なプロセスで起こった可能性に思い至った。それはオクトが触手から分泌した物質によるものかもしれない。
監視カメラに映る謎
坂本は、再び監視カメラの映像を見返した。オクトの動きは規則的で、まるで点滅する光を解読しながら行動しているように見える。しかし、それが本当に意図的な行動であるかどうかを確証するには証拠が足りない。
彼女は施設の他のエリアの監視映像も確認するよう要請した。すると、水槽室から出た後、廊下を進むオクトの姿がちらりと映っていた。さらに驚くべきことに、その動きは明らかに迷いのない直進だった。
「オクトは、出口の場所を知っていた…?」
坂本の中で、疑念は確信に近づいていった。オクトがこの脱走を計画していた可能性がある。だが、それがなぜなのか、そしてどこへ向かったのかはまだわからない。
暗号と行動の意図
坂本は一人、研究室で独り言のようにつぶやいた。
「オクト、君は何を考えているの?これが単なる偶然の行動だとは思えない。」
彼女は光の点滅パターン、データロガーの記録、監視映像を再度整理し、仮説を立てた。
「もしかすると、光のパターンが何らかの暗号になっていて、それを解読したオクトが意図的に行動したのかもしれない。」
坂本はその仮説をもとに、光の点滅パターンをモールス信号として解析することを決意した。そして、その結果が彼女をさらなる謎へと誘うことになるのだった。