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第六章:氷牙と牙を剥く冷たさ

市場での試験を成功させた翌日、翔はさらなる一歩を踏み出すべく準備を整えていた。


翔の秘策「氷牙」は、江戸時代の人々に新たな驚きと冷たさの刃を届けるために用意された。豆乳を基に、氷室の氷、果実のエキスや蜜を使い、絶妙な甘さと滑らかさを実現したこの一品は、ただの甘味ではない。食べる者の感覚を刺激し、鮮烈な印象を与える仕上がりだった。


八兵衛、食べ過ぎの悲劇

最初の試食役となった八兵衛は、氷牙をひと口食べると目を見開いた。「うまい!なんだ、この冷たさと甘みは!しかも喉越しが爽やかだ!」


感動した八兵衛は、興奮のあまり次々と氷牙を口に運んだ。「おい、この冷たさ、もう一口……いや、まだ食べられる!」止まらない勢いで氷牙を食べ続ける八兵衛。しかし、次の瞬間——


「うぉぉっ!頭がキンキンする!」額を押さえて悶える八兵衛。周囲から笑いが起こる中、彼は苦笑いしながらも「だが、やっぱりうまい……!」と手を伸ばそうとするが、止められた。


翔は「八兵衛さん、食べすぎると本当に危険ですよ。冷たさの牙が襲ってきますからね」と警告する。だが、八兵衛はなおも氷牙を食べ続け、その後お腹を押さえて一言。「冷えすぎた……ちょっと厠に行ってくる……」とふらふらと市場の隅へ消えていった。


これを見た周囲の人々は笑いに包まれつつ、「あまり食べすぎないように」と互いに声をかけ合いながら氷牙を楽しんだ。


役人たちへの挑戦

藩の役人たちが氷牙と冷却技術の実演を評価する日がついに訪れた。翔は朝早くから市場へ向かい、冷却装置で保存していた魚を確認した。昨日から保存しているにもかかわらず、魚の身は張りがあり、色合いも鮮やかだった。市場の職人たちは驚きの声を上げた。


「昨日の魚とは思えないな。見た目も匂いもまるで獲れたてみたいだ!」


翔は内心の緊張を押し隠しながら準備を進めた。市場から選りすぐりの魚を持ち帰り、寿司に仕立てた。大皿に並ぶ新鮮なネタが役人たちの前に運ばれると、彼らの視線が吸い寄せられた。


「試食」

役人の一人が慎重に箸を伸ばし、口に含むと目を見開いた。「これは……本当に昨日の魚なのか?身がしっかりしていて、旨味が濃い。色味も素晴らしい。」


別の役人も試食し、「新鮮そのものだな。冷却装置の効果だと?」と興味津々の様子だ。


翔は丁寧に説明した。「はい。この装置で温度を低く保ち、魚の鮮度を長時間維持することができます。これがあれば江戸中で寿司文化をさらに発展させられるはずです。」


続いて、藩の役人たちのもとに氷牙を持参した翔。「この甘味は氷室の氷を活用した結果の産物です。ぜひお試しください。」


「氷牙のお披露目」

試食が進む中、翔は秘策である氷牙を取り出した。「さらに、冷却技術を応用して新しい甘味を開発しました。これをぜひ試していただきたいです。」

役人たちは慎重に氷牙を手に取り、恐る恐る口に運び入れた瞬間、驚きの声を上げた。「これは……ただ冷たいだけじゃない!甘さと滑らかさが絶妙で、喉を通るたびに涼しさが広がる。」


翔は役人たちに八兵衛の失敗談を伝え、「食べすぎると冷たさが牙を剥きますので、ほどほどにお召し上がりください」と丁寧に注意した。それでも一人の役人が調子に乗り、次々に氷牙を口に運び——


「これは見事だが……うっ、腹が……」慌てて席を立つと、そのまま厠へ駆け込んだ。他の役人たちは呆れ顔ながらも、「確かにこの甘味は独特で新しい。試験的に継続を認める価値があるかもしれん」


翔は、「甘いのが苦手な方のために、梅の風味を加えたものもご用意しています」と追加の氷牙を差し出した。これには甘い物が得意でない役人も感動を隠せない様子だった。


氷牙、江戸に広がる可能性

こうして「氷牙」は市場の人々や役人たちの間で新たな風を吹き込んだ。その冷たさと味わいは単なる甘味以上の感動を与え、江戸の文化に新しい刺激をもたらすこととなった。しかし、翔の挑戦はこれで終わりではない。次に何を生み出すのか、期待が高まるばかりだった。

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