翔が作った冷却装置で保存された魚は、江戸の常識を覆す鮮度を持っていた。翔は装置の真価を確かめるため、市場の伊兵衛に頼み、昨日の朝一番に獲れた魚を譲り受けた。
魚の鮮度が落ちるのは避けられない。通常なら、半日も経てば身が水っぽくなり、臭いが出る。しかし、冷却装置で冷やしておいた魚の切り身は驚くほど美しい状態を保っていた。銀色の輝きが失われず、まるで今しがた海から上がったばかりのようだった。
<試食の瞬間>
翔が慎重に握った寿司を手に取り、一口で食べた伊兵衛の顔が一瞬で変わった。
「これは……本当に昨日の魚なのか?」彼は驚きとともに叫んだ。
噛んだ瞬間、魚の弾力と程よい脂の乗りが感じられ、旨味が次々に広がる。「普通、昨日の魚なんて新鮮さがなくて使い物にならない。でも、これなら今朝の魚と区別がつかないどころか、それ以上だ!」と興奮気味に続けた。
市場の他の職人たちも集まり、試食が始まった。「まさか昨日の魚でこの鮮度を保てるなんて……これが本当なら江戸の寿司文化が変わる!」と感嘆の声が広がる。
<冷却の力と革新の兆し>
魚を冷却装置で保存した効果は、時間を越える奇跡をもたらしていた。赤身は新鮮な色合いを保ち、白身はぷりっとした透明感があり、どれもが絶品そのものだった。
「翔さん、これなら遠くの村で獲れた魚も江戸で新鮮に提供できる。まるで夢のようだ!」職人たちの目は輝き、翔の技術に未来を見ているようだった。
<さらなる挑戦を秘めて>
試食会が一区切りしたあと、伊兵衛が翔に問いかけた。「それで、翔さん。次は何を考えているんだ?この冷却装置だけでも十分すごいが、まだ何か隠しているだろう?」
翔は一瞬だけ笑い、慎重に言葉を選んだ。「まあ、これ以上のものを出すには、さらに温度を下げる工夫が必要になる。ただ……ちょっとした“甘い計画”があってね。」
「甘い計画?」伊兵衛が首をかしげる。
翔は「そのうちわかるよ、名前…はそうだな…氷牙ってんだ」と言葉を濁しながらも、その目は明らかに次なる秘策への自信を湛えていた。