翔は石川県の伝統食品研究センターで、特産品であるかまぼこの改良に取り組むポスドク研究者だった。研究の一環として、古代の冷却技術を学ぶため、加賀藩の氷室跡を訪れた冬の日。山奥の静寂な氷室に入り、資料を調べている最中、突然強い冷気とともに視界が暗転した。
目を開けると、そこには見覚えのない光景が広がっていた。木造家屋が軒を連ね、着物姿の人々が行き交い、草履の音が耳に響く。風景を見回すうち、翔は近くの川面に映る自分の姿を確認した。「これは……夢か?」そう呟きながらも、触れる風や地面の冷たさがその感覚を否定していく。
現代の風景とはあまりに異なるこの場所に戸惑いながら、翔は道行く人々の会話を耳にした。「加賀藩……?」その言葉に心がざわつく。話を聞く中で、ここが江戸時代の加賀藩であることに気づき、言葉を失った。
「元の時代に戻らなければ!」翔は冷静になろうと深呼吸を繰り返すが、タイムスリップの原因も解決策も全く見当がつかない。途方に暮れる中で、研究者としての好奇心が次第に不安を押しのけ始めた。「この時代で、自分の知識や技術はどう活かせるのか?」ふと視線を向けたのは、屋台の寿司だった。
「これが……江戸時代の寿司?」現代の寿司の2~3倍はあろうかというその大きさに驚きながら、恐る恐る口に運ぶ。酸味のある酢飯と丁寧に仕上げられたネタ。その風味に感嘆する一方で、翔は気づいた。「鮮度を保つ技術があれば、もっと美味しい寿司が作れるのではないか?」
氷室の技術、現代の冷却方法、そして自らの知識と探究心。翔はこの時代に新たな寿司文化を根付かせる可能性に気づき、挑戦への第一歩を踏み出そうと決意する。