「よし、今日はここまで!」
日が落ちる頃に訓練は終わった。
「はぁ疲れた」
「よし、二ーディも入ったし今日はみんなで食って帰ろう」
「賛成~!」
スパーダを筆頭にお腹を空かせたメンバーが盛り上がり始めた。
「あ…...私500二ーディしかなくて…...」
しかし通貨の価値を知らない私は持ち合わせに不安を抱いていた。
「十分だろ」
「500二ーディあれば大抵食べられますよ」
平然とした表情でそう言われたので安心した。
「それじゃあ行く!」
瞬時に了承して私たちは学校の外の街に向かった。
「そういえば私学校の外出たの初めてかも」
「どういうこと!?」
つい口から出た一言を聞いていたクローバーが驚いた声を上げる。
「あ、学校きて…...ってこと!」
「だ…...だよね」
クローバーも納得したようだが少しヒヤッとした……。
「でもここらへんは全く知らないなぁ」
「どこらへんからきたの?」
「あー……あはは。地名に疎くてサ……ちょっと遠くの方」
「へ~んなの」
気にしてる素振りではないが失言には気をつけないとな……。
「じゃあ私がおすすめの店に行かない?」
「お願い!」
スパーダが教えてくれた店に向かうことになった。
「マスター!やっほー!」
「おや、いらっしゃい」
そこはスパーダいきつけの、物語にもよく出てくる喫茶店だった。
「なぁんだ。結局ロザリアなのね」
「こら!なんだとか言うんじゃない」
「ごめんなさ~い」
文句を言ったクローバーはダイヤママに怒られている。
「リリィとモカは初めてだろ?ここのコーヒー美味しいのよ」
「1度飲んでみたかったんだ!」
私はこのロザリアにはいつも憧れていた!なにしろここはゲームでも作戦会議場になっていたのでプレイしていれば何度も訪れることになるのだ。
「お、知ってたんだ」
「う、うん」
「じゃあマスター!とりあえずコーヒー!あとはみんな適当に料理を頼もう」
「はーい」
スパーダがマスターにオーダーをしてから大きいテーブル席に座る。それに続くように全員でその机を囲んだ。
「楽しみです。私、ここのチーズオムライスが大好きなんです!」
ハートが嬉しそうにはしゃいでいる。その表情だけでなく机の下で手をぱたぱたと動かして太ももを叩いているあたりよほど早く食べたいのだろう。
「私もそれ食べてみたかったんだー!それにしよう!」
「あら、ハートの好みまで知ってたの?熱心なファンなのね」
「そこまでいくとちょっと怖くない?」
少し笑ってはいたがダイヤとクローバーはやや引いているようにも感じた。
「あ……いや……」
「そんなことありません!私は嬉しいですよ!ね、リリィさん。私、今までそんなに人に注目されたことなかったですからとっても嬉しいんです」
ハートはそう言って私の手を取る。隣で真っ直ぐに見つめられてそんなことを言われたら、どんな心配も吹き飛んでしまう!
「ハートぉ……!」
「やってなさいな」
「2人がいいならそれでいいんだよ」
「でもハートばっかりずるくない?リリィねぇね~私たちのことはー?」
モカちゃんがヤキモチを焼いたように口を尖らせてグイグイと私の方を引く。
「あ、もちろんわかるよ?スパーダはナポリタン。ダイヤはフレンチトースト。クローバーはパンケーキ。そしてモカちゃんはチキンライスでしょ?」
「ひぇっ……」
珍しくクローバーが何も言えないくらいの引き方をしている。
「な……なんではじめて来たモカの食べたいものまで……」
モカちゃんまで驚いたような顔をして固まった。
しまった……調子に乗りすぎたか……?
「リリィねぇねすごい!みんなの好みを把握して予測してるんだね!」
すぐに表情を輝かせると私を褒め讃える。都合の良い方向に解釈してくれたらしい。
「ま……まぁね」
泳がせた目線がダイヤとぶつかる。
どことなく冷ややかな視線を感じたがすぐにまた目を逸らして見なかったことにした。
「じゃあ頼もうか」
「マスター!今言ってたやつよろしく!」
スパーダは気にすることもなさそうに私が言った全員の注文をそのまま通す。
「はいよ」
しばらくして店内に食べ物の焼ける心地よい音といい香りが充満する。
「うわぁ……いい匂い……。お腹すいたねぇ」
モカちゃんがお腹をさすりながら口許を緩ませる。
「マスターのお料理はこの町で1番美味しいんです」
ハートもずっとそわそわしながらマスターを絶賛する。
「おいおい、この国だろ?」
それを聞いていたマスターは厨房からツッコミを入れる。
「マスターおもしろ~い」
クローバーが手を叩きながら笑った。
「冗談じゃねぇんだがな」