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適性検査

昼休みにレイン先生に声をかけられた。

「リリィさん。適性検査をするので後で学園長室に行ってください」

「あ、わかりました!」

「放課後すぐがいいと思いますよ」

「ありがとうございます!」

「それじゃあね。お昼に邪魔してごめんなさい」

「はーい」

放課後にハーベスト学園長に会いに行かなくてはならないようだ。特訓はどうしようか……。

「あ、聞いてたよ~リリィ。放課後の特訓遅れそうだね?」

「クローバー」

丁度都合よくクローバーが現れた。

「みんなに言っておくから行っておいで」

「ありがとう!」

「学園長の質問でエトンの精霊が変わるって噂があるよ。なるべく正直に答えなね」

「そうなんだ!わかったよ!」

「うん!変に完璧そうなの狙ってめちゃくちゃな精霊ができちゃった人もいるから気をつけてね!」

それは避けたい……。



そして放課後。私は適性検査を受けるために学園長室の前に訪れていた。

「すみません、キューティ・リリィです」

「……入りなさい」

学園長の許しを得た私はその重い扉を開く。

「どうだね……。学校には慣れたかい?」

私が部屋に入ると、学園長は穏やかに笑いながら問いかけてきた。

「はい!もう魔法も使えますしみんなとも仲良くてしています!」

「そうか……それは良かった……。さて、適性検査だな」

「はい!」

「まずは魔力の確認をする。……手をこちらに。魔力を手に集中させなさい」

「はい!こうですか?」

軽く右手を前に差し出してみる。

「……よろしい。ふむ……なかなかの魔力を秘めているな……」

「そうなんですか!?」

「まだはっきりとはせんがな。伸ばすのも縮めてしまうのも君次第だ」

「頑張ります……!」

そう言われて悪い気はしない。せっかく褒めてもらったんだから、がっかりさせないようにしないと。

「さて……ではいくつか質問をする。可能な限り正直に答えなさい」

「はい!」

「1つ目。君は魔法を何と心得る?」

「えっと……心の力を反映させる……鏡みたいなもの……です」

はじめて魔法を使った時、何かに似ているとは思っていた。それはまるで私の心の中にあるものを別の世界に映し出すみたいな、そんな感覚だった。

鏡は目の前にある存在を映し出して鏡の向こうに顕現させるけれど、魔法は心の中にあるイメージを映し出して目の前に顕現させる。

それを意識してからは、よりイメージを具現化しやすくなったのが根拠だ。

「……ふむ。では2つ目。君にとって正義とは何か?」

一言唸ると学園長はすぐに次の質問へ移る。

「……自分の属する物、それを守るための意思です。敵対する者も同じ物を持つのだと認識しています」

正義は必ずしも善ではなく悪でもない。魔法生物に理性があるかどうかも関係ない。お互いの生に対する執着を競わせた時に、自分の持つ盾が正義だ。この時矛になるものが欲望だと思う。

生きとし生けるものが争う理由は何かを望むから。それは住処だったり家族だったり食物だったり誇りだったりする。しかしそのどれもが言い換えればある種の欲望である。

欲望を欲望足らしめないために用意する綺麗事が正義だ。この盾の大きさが大きければ大きいほど行為は正当化されやすく味方は増えやすい。時には敵対者すらも納得させられる堅固な盾となるだう。

「……なるほど。では3つ目。戦いにおいて最も大切なことは何か?」

「それは……命に対する尊重だと思います。仲間の命、敵の命、それは全て戦場では等しい。奪うのも奪われるのも、守るのだって等しく与えられた権利なんです。相手に敵対の意思がなければその対象は敵だろうと等しいはずです」

強い者も弱い者も戦場に居る限りは等しいのだ。

戦い、命を懸ける。

ただそれに負けたものに慈悲を与える権利も持ち合わせているはずだ。手を取り合う権利も持ち合わせているはずだ。

戦いにおいて情けは判断を曇らせるというが、屍の上に礎を築くことになる以上はその犠牲は少ない方が良い。

相手に改心の余地が無く、復讐に目を濁らせる他ないのならば仕方がないが……そうでないのならば私はその命を尊重したい。

「……君は最近この世界に来たのだったな?」

「はい。しかしこの世界の天使としての意見です」

そう、紛れもなく。私はいつだってこの世界を夢見てきた。そうして常に考え続けてきた。失われていく仲間、育まれる絆。その全てが等しく平等に敵味方に存在していたから。

「……先の戦いを踏まえての意見ならば真実なのだろう。わかった。君のエトンを作ろう」

「ありがとうございます!」

私の答えを肯定も否定もせずに学園長は質問を終える。思想の矯正のためではなく本当にエトンを作るために必要な私の中の心象を吐露させるための問いかけだったのだろう。

「見ていなさい」

「え?」

学園長が情報をもとにあとで別のどこかで作るのかとおもっていたわけだが、私はこの部屋に引き留められる。

「エトンは君本人がいないと完成しない」

そう言うと私を魔法陣の書かれた敷物の上に立たせる。

「これを全校生徒分やったんですか!?」

「それくらいすぐにできるということだ」

魔力の消費は問題ないといわんばかりだ。流石学園長……。

「ではお願いします」

「うむ……」

学園長が目を閉じると周囲に光が集まってきた。それを溜めるように手を前に出し大きな光が手に集まった時、学園長は開眼した。

「ふんっ!」

学園長が低く唸り手を握ると目の前の光が弾けその中から魔導書のような影がでてきた!

「できたな」

「これが……エトン……」

光の残像の中に浮かぶエトンはだんだんはっきりと姿が見えるようになってきた。

「これは……!」

そこにあったのは、緑色のエトンだった。

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