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特訓開始!

今日からエデンズカフェの特訓がスタートする。私は張り切って朝から目が冴えて仕方なかった。起床時間になっているのに未だに寝ぼけているモカちゃんを引きずりながら校庭に向かった。

「おはよ!みんな!」

溢れ出すやる気を声に乗せて挨拶する。

「お、元気だなリリィ」

「あったりまえだよ!まさかみんなの特訓に参加できるなんて!」

腕をぶん回して喜びと情熱を表現する。

「これからはそれが当たり前だ。お前もお前自身が憧れる自分になるんだ」

「ひゅ~っ!ダイヤかっこい~!」

「クローバー。お前はもう少し真面目にやれ」

「うげっ……流れ弾」

ダイヤを茶化したクローバーは無事叱られた。

「クローバーさんもカッコいいですよねっ!」

「そういうことを言ってるんじゃないんだが……」

よく分からないフォローをするハートもかわいい!

「さあ、始めようぜ!」

「あ、はーい」

「スパーダ。まずは何をする?」

ダイヤが早速スケジュールの確認をする。

「ストレッチをして軽く走った後に軽く魔力コントロールをするんだ。朝練だからな。そんなに重くはしないし時間もかけない」

「流石スパーダ!よく考えてる!」

私が褒めるとスパーダは照れくさそうに頭をかく。

「ダイヤが決めたメニューなんだけどね~」

「余計なことを言わないで!」

「へへ~」

クローバーに真実をバラされたスパーダは恥ずかしそうに彼女をはたく。

「よし、じゃあストレッチ!」

私たちは2人ずつ3組に分かれてストレッチをした。



「クローバーがペアか!」

私のペアは小柄なクローバーだ。

朝からみんなにちょっかいをかける様子からわかるように彼女はメンバーの中でもムードメーカーで周囲を明るく照らす。

「よろしくねリリィ!」

今も私に向ける笑顔が眩しく私を温める。

「クローバーって、小さい割にかなりしっかりした筋肉なんだね」

よく見ると彼女の細い四肢は引き締まっており、そのすばやさの素となる瞬発力を生み出せることにも納得できる。

「ちっさいは禁句!でもそうだね。私って双剣を使うから足腰は特にちゃんとやってるんだ」

「あれはやっぱり筋力なの?」

「魔力も使ってるよ。剣の柄が柑橘類みたいになってるでしょ?あそこの果肉みたいな部分がバーニアになっててぶしゃあって魔力を放出するの。そうすると勢いをつけた斬撃を放てるってワケ」

加速魔法みたいな感じか……私の弩も矢を放つ時に何か付与出来たらな……。

「うわぁ……すごいなぁクローバー!」

「へへん!いいでしょ~」

私の羨望の声に鼻を高くしている。

「おいおい手が止まってるぞ。しっかりやれ。身体を痛めても知らんぞ」

「はーい」

彼女に目を光らせていたダイヤはその様子を見てすぐに指摘してきた。

「よし、じゃあ……ぎゅ~!」

クローバーは真面目にストレッチに取り組み始めたのだが……。

「いた!いたたたた!ちょっと強いって!」

関節に激痛が走る!

「あれ?固いねリリィ」

とぼけたような声を出してクローバーが私を覗き込む。

「クローバーが強いんだって!」

「いやでも私半分くらいしか押し込んでないよ?」

「え、ほんと?」

「うん。もっと押そうか?」

そう言いながらクローバーはさらに力を込めてくる。

「うわああ!いたいい!」

再び私の身体に電流の走るような痛みが生じる。

「ちょっと、いじめちゃだめでしょ!」

その声を聞いてモカちゃんが飛んできた。

「わ、いじめてないよ!ストレッチは大事でしょ?」

クローバーは急いで弁明する。

「しかし私も見てたが固いなリリィは」

モカちゃんのペアをつとめていたダイヤもこちらへ来て私に苦言を呈する。

「個人差あるでしょ!」

「いいや甘い!唐突に襲われた時や機敏な判断を問われた時に身体が動かなければ命を落とすこともある!常に身体はしなやかに保つべきなんだ!」

「それはそうかも……ごめんダイヤ」

「気にすることはない。確かに個人差があるというのも事実だ」

私の弱気な発言に対してもしっかりとした反論とフォローをしてくれる。

「私たちがみんなで柔軟手伝ってやるからさ!ね!」

スパーダまでやってきて私の背を力いっぱい押さんとばかりに腕をまくっている。

「え、そこまでは……」

「そうですよ!やりすぎるとむしろ身体に悪いですから!日々の積み重ねが大事です!」

スパーダとペアを組んでたハートまでやってきて結局全員が集まってきてしまった。

「ちぇ……押してやろうと思ったのに」

ハートに叱られたスパーダは唇を尖らせながら服を戻した。

「なんかスパーダからは悪意を感じたよ……」

「なんだとー!」

私のぼやきを聞いたスパーダが図星を突かれたように笑いながら私の脇腹にちょっかいをかけてくる。

「あはは、ちょ、ちょっとスパーダっ!」

「うりうり〜!参ったか〜!」

調子に乗ってしつこく色んな場所をつついてくる。

「何やってんだリーダー」

いい加減にしろとばかりにダイヤがびしりとスパーダの脳天に手刀を放つ。

「いたたっ!」

「この調子じゃあストレッチで終わってしまうだろう」

「じゃあここらで切り上げて走るか!」

ダイヤの指摘を受けてスパーダはみんなに指示する。

「おー!」

「それで、どのくらい走るの?」

「校庭を10周だ」

その返答に私は目を丸くした。

「軽くって言ったよね!?」

「軽いだろ?」

「うん」

「リリィさん、普段あまり運動はされないのですか?」

「いや、なんというか……なんとも言えない……」

周囲の反応を見る限り驚いているのは私だけらしい……。

「とりあえず走ってみるか?」

「羽根を使うのはなしだぞ」

「まだ使えないんだよ」

「なら好都合かな」

どうやら条件は同じらしい。

「速さを競うんじゃないからな」

「無理せず頑張ればいいんだよ~。やった分だけ次できるようになるからさ!」

「わかった!頑張ってみる!」

「ファイトです!リリィさん!」

みんなの応援を受けると自然と勇気が湧いてくる。

「ありがとうハート!」

そして私たちは走り出した。



「あれっ!意外と……走れる!」

走り始めてから数分、本来ならばとっくに汗だくになり息も切れ切れになっている頃なのだが……多分この身体と元の身体では肺機能が違うからだろう。身体能力にもこうまで差がつくと非常に爽快だ。

「おいおい!さっき泣き言言ってたやつがあんなに走れるものか?」

スパーダがいじれなかったことを少し悔しがりながらそう言う。

「杞憂だったみたい!」

「すごーいリリィねぇね!」

「でもなんやかんやみんな同じくらいの速度だね」

「クローバーはぶっちぎりだけどね……」

「あれ?私の話?」

すぐ後ろからクローバーに声をかけられる。

「1周差をつけられた!」

そして私たちは10周を走りきった。

「はぁ、気持ちよかった!走るのがこんなに楽しかったのははじめてだよ!」

息を整えながらグラウンドを歩く。

このクールダウンの時間は元の身体では走った後にさらに歩くという苦痛でしかない時間だったのだが、今ならなぜこの時間が存在するか実感出来るほど清々しい気分だった。

「みんなで走るのがまたいいよね!」

「ほんとね!」

「よし!次は魔力コントロール!武器を出せぇ!」

掛け声ひとつで体勢を整え、みんなが一斉に武器を具現化する。

「扱いには注意しろよ!特に火を使う時はな!」

ダイヤが注意喚起を行う。

「はーいママ~!」

「おらっ!」

「おわっ!危なっ!」

ふざけたクローバーは足元からツタを生やされた。

「よし、じゃあやろう」

「うおー!」

「がお〜!」

「えいっ!」

みんなそれぞれで時間いっぱいまで武器の扱いを特訓した。

「ふうっ。いい汗かいた!」

数十分に及ぶ特訓はようやく終わった。

「みんなおつかれ!」

「それじゃあ教室に行こうか!」

私たちはホームルームが始まる前に教室に向かうことにした。

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