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警報発令

数日間この世界で暮らし、ようやく天使としての自分にも慣れてきた。魔法もそこそこ使えるようになってモカちゃんとも家事を分担できるようになったし、みんなと同じ授業を受けられることが嬉しい。そんな毎日に満足していたのだけれど、私がここに呼ばれた本当の理由をすっかり忘れそうになっていた。

「そういえば、私が来てからもう10日くらい経つけどまだ1度も戦いに参加してないね」

「うん。もともと脅威になる前に処理されちゃうからそもそも大きな敵勢力は現れにくいし、もし現れても戦力にならないうちは参加しても無駄死にしちゃう天使が多いから参加要請が来ないこともあるよ」

「無駄死に……なんか急に怖くなるね」

モカちゃんはそれが当たり前みたいに言うのがまた怖かった。

「でもまぁリリィねぇねは魔力も高いからすぐに戦えるようになるよ」

「そうだといいな」

「そういえば、今度の授業はいよいよ飛翔訓練だね!」

「あー、そういえば私まだこの羽根1度も使ってないかも。お風呂入る時に毎回気にはなってたんだけど」

配給された衣装は不思議なことに翼の部分が服を貫通するようになっている。

羽根は背中から直接生えているがこの機構のおかげで服の上から翼を動かすことができるらしい。

「翼を使ったことの無い天使ってのも珍しい気はするんだけど……」

「あはは……意識してなかったんだよね」

「まぁアカデミーでちゃんとした飛び方習うくらいだからがっつり飛んだことの無い天使も多いよね。大丈夫だよ!」

「ありがとうモカちゃん」

シンバに言われていたのだがあまり他の世界から来たことは他言するべきではないらしい。私が世界の結末を知っていることもかなり世界に影響を与えてしまう。最悪の場合敵に捕らえられて情報を絞り出されて国全体が滅ぶ事態になりかねないのだという。

もちろんその場合私は廃人になってしまうだろうから魂もボロボロになってしまい元の身体に戻ったとしても目が覚めなくなるかもしれないのだという。そんなリスクを犯してまでペラペラと喋る訳にはいかない。

「よし、じゃあ学校行こっか」

「うん!」

今日も今日とて学校へ向かう。学生寮を出たらもうちょっと歩くだけなのだけどこの登校のワクワク感は今までの学生生活で感じたことのないものだった。



「あ、リリィさん。おはようございます」

寮から出たところでハートに声をかけられる。

「ハート!おはよう!」

「今日も元気いっぱいですね」

「うん!ハートに会えるんだもん!」

この子に会えるだけで元気は満タン!

「あはは。……でもリリィさん、どうして私のことをそこまで気にかけてくださるんですか?」

まぁ……ハートからしたら気持ち悪いかもしれない。自重しなくてはならないかもしれないが……正直な気持ちも伝えておこう。

「ハートが頑張ってきたこと、私知ってるんだよ!その頑張りを見て私は勇気をもらった!だからハートが大好きなんだ!」

「照れちゃいます……」

私の真っ直ぐな想いを受けたハートは顔を赤らめて恥ずかしがる。

「かわいいねぇ」

「えへへ……」

ニヤケ顔が隠せないハートもかわいいー!!

「ね!ね!モカは!?」

私とハートのイチャつきを見てちょっと嫉妬した感じでモカちゃんが訊いてくる。

「モカちゃんもかわいいよ」

もちろん私は平等に愛する……。モカちゃんを撫でながら甘く囁く。

「えへへぇ」

何とも愛らしいお花が2輪。

「お、リリィ、朝から何ナンパしてんのっ!」

スパーダに見られてしまった。

「だってかわいいんだもん」

「それは否定できない。うん」

私の言葉を受けて深く頷く。

「でしょ?」

「でも独り占めするのはずるいって!」

スパーダはびしりとこちらに指をさす。

「別にしてないよ。なんならスパーダのこともかわいがりたいんだから」

「別に……いいわよ?」

ダメもとで言ったけれど満更でも無さそうな様子だ……これは好機!

「よーし、じゃあこっちにおいで」

スパーダは意外にも私の抱擁を受け入れた。

「なんか……恥ずかしいわね」

モカちゃんとハートも近くにいるのでまとめて腕を回す。

「なんだかリリィさんは、暖かくて居心地がいいです」

「ね!なんだか全部包み込まれちゃいそう……」

天使たちにそんなことを言って貰えるなんて……!この子たちがいい子すぎるのもそうなんだけど現実世界とのギャップで思わず気を失いそうになるほど嬉しい。

「さ、みんな行こう!」

「おー!」



「はい、じゃあみなさん。授業をはじめますよ」

レイン先生がみんなに挨拶をする。

「今日は魔力構造のお勉強をしましょう。仕組みの理解はより洗練された魔力の調節を可能にしますよ」

真面目な授業が続いていった。

しかしもうすぐ昼になるという頃に、事件は起こった。

ジリリリリリリ!

「うわっ!この音!もしかしてこれ……!」

校舎が震えるような音が響き渡る。そしてこの音には聞き覚えもあった。奴らが襲来した時の非常事態告知。ついにその時がきたんだ!

「第3天使アカデミー周辺に空間の歪曲を確認!魔法生物の反応があります!迎撃できる生徒は反応対象を確認し危険性が認められる場合は撃破、もしくは撃退してください!」

校内に大きな音でアナウンスが流れた。

「出た!おーい!リリィ!こっちこっち!」

スパーダが手を振ってこちらに呼びかける。

「スパーダ!私、どうしよう?」

既に彼女の許にメンバーが集まっていた。

「えっと、とりあえず私たちと一緒にいよう」

「第3天使アカデミーには戦える天使がそれなりにいるから対空は任せていいと思うわ」

「まだリリィねぇねは空を飛べないからそうしてもらえると助かるよ!」

モカちゃんはこんな時でも私を気遣ってくれている。

「リリィさん!気をつけてくださいね!」

「油断すると死ぬことになる……あまり前に出すぎるなよ」

他のみんなも私に対して戦闘への警戒を促した。

「第3天使アカデミー編の4天使がいるってことは多分2部始まって直後の襲撃イベント……スモールデッドの襲来か!」

「何言ってるの?」

「あ、いや!なんでもない!」

スモールデッドは小型のゾンビのような魔法生物。……正直現実には目にしたくなかったな。でも元の世界のフィクションみたいに噛みつかれたら終わりとかじゃないし大丈夫でしょ!

「私、頑張るから!」

私は勢いよく飛び出した。

「あ、ばか!油断するなって!初陣だろうが!」

「リリィさん!魔法生物は危険なんです!」

「おい!流石にそんな無茶はほっとけないわよ!」

引き止められて散々怒られてしまった……。

「ごめんなさい……」

「まったく、はじめてだから成果を上げたい気持ちはわかるが焦ったら命を落とすぞ」

「とりあえず今回は補助に徹してね」

「大丈夫だよ~私たち、意外と強いから~」

「うん……ごめんね」

みんなが優しくそう言ってくれるのが嬉しかった。でも、私だってもう戦わなくちゃいけないんだ。

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