私が入学して最初の授業が始まる。
みんなで体育館のような広いホールに移動した。
「はい、では今日は魔力テストをしますよ」
レイン先生がみんなを集めて段取りを進める。
「え~またテスト~?」
「もういいじゃんテストはー!」
皆口々に文句を言い始める。
「どんな時でも魔力を調整できるようにしないといけませんから」
「そうですよみなさん!敵はいつ来るかわかんないんですからっ!」
先生に同調するようにして真面目なハートが皆を説得しようとする。
「ハートがそういうなら……」
「先生の言うこともきいてくださいな」
ハート贔屓を目の当たりにしてレイン先生は呆れ顔になる。
「あの……私、魔法使えないんですけど……」
先に言っておかないと色々と不安なのでおずおずとながら先生に申し出る。
「大丈夫。みんながテストしてる間に指導しますから」
レイン先生は優しく微笑みながらそう言ってくれた。
「ありがとうございます!」
「じゃあ各々グループを組んで計測して報告してくださいね」
「はーい」
その合図とともにそれぞれがグループを作り始め点在する計測種目へと散らばっていった。
「さて、それではリリィくんにはこちらに来てもらいます」
「はい!」
私は先生にホールの一角へと連れられる。
「魔法の使い方だね。本当に何もわからないのよね」
「はい」
「でも魔力はあるからあとは使い方だけね」
先生が私の胸に手をかざすと不思議な光が湧いてくる。これは私の魔力……?
「どうやればいいんですか?」
「まずは属性のイメージ。元素をイメージしてそれを増幅させるの」
「えっと……」
「例えば火が出したいとします。そうした場合は頭の中で燃える火をイメージするんです」
「燃える火……」
ぱちぱちと弾ける……ごうごうと燃え盛る……めらめらと拡がっていく……。
イメージを重ねる度に何やら熱い感覚が湧いてくる。
「そのイメージを保ったまま魔力を放出したい部分にこめます」
「その魔力の使い方がちょっと……」
「心臓から湧き上がってくるチカラを右手に集めるよう意識をしてみて」
先生は私の曖昧な質問の連続にもしっかりと答えてくれる。
「うーーん……あっ!」
やがて何かじんわりと温かいものが胸から溢れてくる。その何かは確かに自分の意思で動かすことが出来る。
「これを……右手に……!」
「うんうん!なかなかいいよ!火を出すイメージで!放出して!」
「はぁっ!」
ぼっ!と音がして私の手から炎が出た!
「うわー!すごいすごい!」
未だに熱を帯びた手をぱたぱたと扇ぎながらはしゃぐ。
「おめでとう!そのイメージを大事にね!」
先生も拍手しながら祝福してくれた!
「じゃあもう大丈夫ですね!」
「いやいや、今日はとりあえず色んなイメージを具現化して特訓してみましょう」
「はい!」
私は一通りの魔術の基礎を教わった。
「はい、みなさん測定終わりましたか?」
開始からしばらく時間が経って、先生が目前に集合したみんなに呼びかける。
「はーい!」
「それでは報告してお昼にしましょうか」
全員の記録をまとめた端末を持って先生は職員室へと戻っていった。
それと同時にお昼を告げるチャイムが鳴り響く。
「ねえねえリリィ!お昼一緒にどう?」
スパーダがお弁当をもって私のところに駆けてきた。
「あ、スパーダ!うん!」
「リリィねぇね、私もいい?」
モカちゃんも私に突撃するようにくっついてきた。
「うん!もちろん!」
スパーダについてきたハートたちもあわせてみんなで食堂に行った。
「どう?リリィ。魔術の方は」
サンドイッチを頬張りながらスパーダが私のことを訊いてきた。
「ほんとに使えた!びっくりしたよ!」
「じゃあ授業にも参加できそうね!」
自分のことのように嬉しそうにクローバーが喜ぶ。
「うん!」
「これから、一緒に頑張りましょうね!」
ハートが控えめにぐっと拳を握って私を応援する!
「よろしくねハート!」
「はい!」
「私たちもいるっての!」
ついハートに夢中になってしまったことを反省する。
「あはは、ごめんごめん」
しばらくして、私たちが食べている近くにニールが1人でやってきた。
「あ、ニールさん……」
ハートがニールに気づき声をかける。
「……邪魔だったか?」
ニールは軽く嘆息してみせたがどうやら照れ隠しのようだった。
「どうだよ?学校は」
「……悪くない」
スパーダの問いに冷静さを保ちながらも満足気に語る彼からは、かつて彼女たちと戦った頃の毒は微塵も感じられなかった。
「あ、リリィは知らないと思うけどニールも最近入ったんだよ」
「魔法は使えるけどね」
「使えるなんてもんじゃないっての……」
「んー?どういうことー?」
クローバーの失言について、私はわざとらしく掘り下げてみる。
「……たまたまだ」
「ふぅん」
誤魔化された。
「……あんた、飛翔訓練の時にバレるわよ?」
「……ほっといてくれ」
「……なになに、別にいいじゃん。あ!もしかして~!」
「……斬るぞ」
「……こわ~い!」
ニールとスパーダが何かこそこそと話していた。
「どうです?ニールさんっ!私たちと一緒に食べませんか?」
ハートが椅子を引きニールを誘う。
「お前らと……?……いいのか?」
「もちろんです!ニールさんは仲間ですから!」
「……感謝する」
ニールは少し嬉しそうに食事を持ってきた。
「ニール、おつかれ」
正面に座ったニールに声をかける。
「リリィ。魔術は覚えたのか?」
「うん!ばっちり!」
「……そうか」
言葉は素っ気ないがやや口角を上げるのを見た。
「もしかして気にしてくれてた?」
「……ふん」
「素直じゃないねぇ~」
意外にもニールは私に目をつけてくれたようだ。
「リリィさん、ニールさんともう仲良しなんですね!」
「うん!ニールってカッコいいんだもん!」
「……な、なにを……」
流石に何度も言われると恥ずかしいらしく今回は目を泳がせて頬を赤らめていた。
「あははっ。ニール動揺してんじゃん」
「女の子慣れしてないのよ……」
「かわいいねぇ~」
「リリィねぇねも意外と満更でもない感じじゃない?」
「ひゅーひゅー!」
天使とはいえ流石に女子たちである。こういう浮ついたことがあるとすぐに盛り上がってしまう。
「……騒がしい……っ!」
ニールは顔を赤くして席を立とうとする。
「あははは!」
「ご、ごめんなさいニールさん。みんな悪気はないんです。」
「……それは……わかっている」
ハートに引き止められようやく椅子に座り直す。
「よかったです……。あの!ニールさん!その……やっぱり……なんでもないです」
「……そうか」
あ……!フラグが立ち始めている……?がんばれハート!
「ねぇハート!私ニールのこともっと知りたいな!ハートたちとはいつから知り合いなの?」
ここでハートを後押しするためにもニールとのことを質問することにした。
「いつから、ですか……。うぅ……えっと……」
「……俺が編入して間もなくだ。あまり長い付き合いではない」
隠しておきたいことがあることはわかっている。だからハートは返答に困惑していたわけだが、それをフォローするかのようにニールが代わりに答える。
「そっかぁ」
「リリィ……お前はどうしてそんなに俺の事をきくんだ?」
今度は逆にニールに訊かれてしまう。
「えっと……」
ハートと結ばれた時にナチュラルに関係に組み込めるように……とはいえないしなぁ……。
「仲良くなりたいから……?」
「……そんなことを言う天使がいるとはな」
咄嗟に出した一言だったが、ニールは少し嬉しそうに笑う。
「……みんなあんたのこと知らないわよ。あんたが変に周りと距離を置く必要ないってこと……」
「……ふん」
「じゃあ納得してくれた?」
「……あぁ。仲良く……という点に関しては、努力はしよう」
「ありがとう!」
どうやらニールとは仲良くなれそうだ。
その後はみんな報告結果からランクを出して解散という流れになった。私は習ったことをノートにまとめていた。
「うん!私たちはBランクになったね!」
スパーダが診断書を広げて確認する。
「ごめんなさい……私はまだCランクでした……」
ハートはメンバーの中では唯一Cランクのままだった。
落ち込んだように目を伏せながら謝罪の言葉を述べる。
「気にしないでよハート~!ハートはいざとなった時に強いんだから!」
そんなハートにクローバーが元気づけるように肩を組みにいく。
「ありがとうございます!」
「まぁ……1番努力してるしね……」
寡黙なダイヤもぼそりとそう呟いてハートをひっそりと励ます。
「ダイヤさん……!」
「あ、リリィ。えっとね、魔力測定の結果はランクをつけるんだけどね。Bになれば1人前って言えるんだよ!」
「より激しい戦場に行けるようになるから昇進しないとね」
「みんなは、怖くないの?」
ランクが上がると強い敵と戦わなくてはならなくなる。ゲームだったらそれは面白いことだけれど、この子たちにとっては命懸けだ。
正直私は、怖かった。
これはゲームじゃない。戦争だ。
死んでしまうかもしれないのに、楽しく相手の壊し方を学んでいく。
学ぶほど、実感が湧くのだ。
この世界で生きるということは、私は誰かの命を奪い、奪われることになるということだ。
平和に暮らせていたあの世界とは全く違う、残酷な世界に来てしまったのだという実感が。
「あいつらが私たちの国を脅かす方が怖いよ!」
「そうそう!だからがんばるんだよ!」
天使たちは、それでも明るく奮起する。
この子たちが護ろうとしているのは、そんな平和のための明日に違いなかったのだ。
「……みんなすごいなぁ。私も頑張って追いついてみせるよ!」
戦ってもいないのに、迷ってなんかいられない!
「リリィさんと一緒に戦うの、楽しみにしてます!」
「ハートにそう言ってもらえるとがんばれるよー!」
「リリィねぇね!がんばれ!」
「モカちゃんもありがと」
みんなの応援が身に染みる。
「あんたはいいの……?」
スパーダが少し離れていたニールに声をかける。
「……なんで俺が……」
「あ、ニールも応援してくれるの?」
「……先に行く」
私がニールを見ると顔を見せないように振り返ってしまう。
「あ、待ってよー」
ニールは去っていった。
「あいつも素直になったもんよね」
「ね、あれでも素直って言えるレベルなんだもん」
「そんなだったの?」
「あー……でも本人から聞いてよ。私たちもあんまり本人のいない所で言うべきじゃないもんね」
「偉いよスパーダ……」
「じゃあ私たちも帰ろうか」
「みんなでかーえろ!」
「おー!」
事情は知ってはいるけれど……未だにその内情を打ち明けてくれない状況というのはなんとなく歯がゆい。早くみんなと打ち解けたいな。
でも今日は魔法の使い方を学んでニールとも仲良くなれた!これでハートと仲良くなりつつ天使として戦っていく計画は順調に進むぞ!
私はウキウキと胸を弾ませながら一日を終えたのだった。