朝から嬉しいことにモカちゃんに手を引かれながら教室まで連れられてきた。
「おはよ!」
「おはようモカちゃん!……あれ?その人誰?」
モカちゃんの友だちの天使たちが集まってきて私を見て不思議そうな顔をする。
「リリィねぇね!」
なんの迷いもなくモカちゃんはそう言い放つ。
「お姉ちゃんいたの?」
「うん!」
平然とお姉ちゃんにさせられている……。
「あ、えっと……リリィです」
「よろしくね!」
やはり周りの天使たちは新入生が珍しいのか次々と私の周りに集まってくる。
「ね、どこからきたの?」
「得意な魔法は?」
「好きなことは?」
周囲から次々と質問を浴びせかけられ目が回ってしまいそうだった。
「あ、ちょっとあんまり質問しないであげて!まだ慣れてないの」
間に入るようにしてモカちゃんが質問を規制する。
「お姉ちゃんなのに?」
「なんか複雑」
「モカちゃん……ややこしくなってるよ……」
「まあいいんじゃない?」
私が良くないんだけど……。
「はい、じゃあ出席とるよ」
がらりと扉を開ける音とともに教室に先生が入ってきた。
「あ、君リリィくんだね。クラスに紛れ込んでたら自己紹介とかさせられないじゃん。はい、じゃあ前に出てきてもらいます」
私は早速先生に見つかり教壇の前に呼び出された。
「あ、私の自己紹介もしておこう。君の担任のジューシィ・レインだ」
私より前に名乗る律儀さと女性なのにカッコいい口調が素敵なレイン先生だ。
「レイン先生……」
つい恍惚としながら復唱してしまったが名乗るべきなのは私の名前だ。
「はい、次は君の番。みんなに自己紹介だ」
「キューティ・リリィです。よろしくお願いします」
やや緊張しながらもはっきりと名乗りを上げる。
「あれ?ストロベリー・リリィじゃないの?」
「モカちゃんのお姉ちゃんってきいてたけど」
クラスメイトたちが動揺した声を上げる。
誰かさんが変なこと言うから……。
「ん?ただのルームメイトのはずだが?」
ソッコーでバレた……。
「モカちゃん……」
大人しく白状するように彼女に促す。
「私にとってはねぇねなの!」
しかしモカちゃんは往生際悪く椅子から飛び上がりながら叫ぶ。
しかし先生に睨まれてすぐに黙った。
「それで?リリィちゃんはどこに座る?」
「俺の隣!」
「いいや僕だ!」
転入生の女子ともなると男子たちがうるさくアピールしてくる。
「ちょっと男子!うるさいから!」
「じゃあ空いてるならあそこ。あそこな」
私は窓際の1番後ろの席に座った。
「隣は……あれ?」
「……どうかしたか?」
隣に座っていたのはなんとグレープ・ニール!ということは……この世界もう2部に突入してるんだ!
グレープ・ニールは天使たちの中では異質な禍々しいファッションをした男子だ。それも理由があってもともとニールはこの天使たちが戦っている敵側の存在だったのだ。
しかしあの4人と戦った後に天使たちとの共存の道を探すことを思い立ち、この学校に通うことになったのである。
「あの……はじめまして。リリィです」
とりあえずお隣のご挨拶といこう。
「……ニールだ」
「……」
ニールは寡黙だからなかなか会話が難しい……。でもニールとは仲良くなっておきたい。なぜなら!後にニールはハートと結ばれるから!ハートの近くにいるためにもその彼氏になる男とはちゃんと接点を作っておかないと!
「ニールくんは……」
「ニールでいい……」
ぼそりと一言呟く。お言葉に甘えさせてもらおう。
「えっと……ニールはなんか周りと雰囲気が違うね」
「……そうか」
表情を変えずにただそれだけ言う。
「うん。カッコいい感じがする」
「……ふん」
お世辞も効かない。……あーまぁお世辞ではないんだけどサ。うーん、どうしましょ。
「あの……私まだ魔法とか使えなくて」
「魔法が使えない……?天使なのにか?」
何となく放った一言にニールが反応する。
「うん……」
「……そうか。お前と俺は、少し似ているのかもしれないな」
「え……?」
「話は終わりだ。静かにしていないと注意されるぞ」
ニールは含みのある言い方をして話を切った。
……その秘密もきっと、あのこと、だろうけど……。