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32 姫君ステラ・コリンドの留学 その1_02

   *          *


 ファイルド国側で、ステラ・コリンド第三皇女殿下の護衛を引き継いでから数日。

 殿下の入国の報せが、早馬を使って国中に瞬く間に拡散していった。


 一行の移動中、ゆく先々の沿道には多くの人々が詰めかけ、その麗しき殿下を一目見ようと、固唾を飲んで見守っていた。


「とても美しい姫君がいらっしゃった!」


「お美しくて、愛らしい。思ったよりも華奢なお姿だわ!」


「この世の者とは思えないくらい、かわいらしい!」


「隣国の姫君は、黒髪でいらっしゃるのだな!」


 沿道の人々の多くは、それ程までに美しい姫君が隣国から訪れたことを、心より歓迎した。


 だが、戦後10年経った今でも、その傷跡は深く残っていた。

 人々の中には、蔑みの言葉をぶつけたり、石を投げ付けようとする者もいることにはいた。


 ここで間違いの起こらぬよう、王宮側は中年の一級剣士ら護衛の任にある者と連携して、厳重な警備網を敷くことで上手く対応した。


 ステラ殿下の一行が無事に王都に到着すると、王宮までの沿道は歓迎する多くの人々で埋め尽くされた。


 あちらこちらから女性達の黄色い声が上がり、両国の友好を感極まって訴える声や、最近王都で流行の「万歳三唱」で出迎える人々も大勢いた。


 ちなみに、その「万歳三唱」についてなのだが、……。

 実はこれ、ハルコンが王宮の求めに応じて提案した歓呼の礼のひとつだ。


 民衆が王族の奉送迎に対していちいち最敬礼をするのも堅っ苦しいので、どうせなら歓呼の言葉を挙げさせることにしたのだ。


 元々、ハルコンの前世の地球でも「万歳三唱」は明治時代以降に始まった、比較的新しい歓呼の礼のひとつだ。


 それが、今ではおめでたい席や、繁栄や発展を祈る式典で普通に使われるようになっており、このファイルド国でも採用するに至ったのだ。


「「「「「「「「「万歳! 万歳!! 万々歳!!!」」」」」」」」」」


 一斉に沿道の大勢の人々が叫ぶものだから、馬車の客室の席にいらっしゃるステラ殿下は、その細い両肩をびくりと震わせた。


「ステラ殿下、……そうご心配なさらずともよろしいのですよ!」


「はい、ハルコン様。ただ、この迫力に気圧されてしまって、……」


「ハハハッ。まぁお気持ちはワカります」


 ニコリとお笑いになられる殿下に、ハルコンとミラもニコリと笑顔で相槌を打つ。


「この度は、お二人が私の護衛をして下さり、誠にありがとうございます」


「いいえ殿下、お気遣いなく。今後王立学校でも、私どもがご一緒させて頂きますので、どうかよろしくお願い申し上げます」


 その言葉に、薔薇のような笑顔で頬を染められるステラ殿下。ハルコンの傍らのミラも、笑顔で頷いていた。

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