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32 姫君ステラ・コリンドの留学 その1_01

 王宮での緊急会談から2週間後、隣国の第三皇女ステラ・コリンドが、ファイルド国に当初の予定どおり入国した。


 ファイルド国とコリンド国の両国は、長らく続いた戦争を終え、現在は休戦状態にある。

 そんな均衡状態の中、コリンド国の皇帝は末娘ステラ・コリンドを、両国の友好のシンボルとしてファイルド国に送ってきたのだ。


 肩まで伸びた黒髪、年齢よりも華奢な身体。

 色白の肌に、アメジストのような紫色の瞳がとても映えている。


 とにかく、この世の者とは思えないくらい美しい少女。

 しばらく前まで病に臥せっていたとは思えない程に、健康的なご様子だ。


 受け容れる側のファイルド国の人々は、その幼き姫君を好意的に見ていた。


「あぁっ、あの麗しの姫君が、御身を引き換えに、この国の民をお救いになられるのだ!」


「お可哀そうに、お可哀そうに、……」


 一方、コリンドの沿道の人々は、どうやらステラ殿下がファイルド国に人質として差し出されるものと勘違いしていたようだが、……。


 なかには涙ぐみながら、殿下に向かって大きく何度何度も手を振っている婦人もいたのだ。


 ステラ・コリンド第三皇女殿下は、11歳とまだ幼い。

 だが、その表情や身体の雰囲気は大変緻密にまとまっていて、見る者を強く惹き付けるオーラがあった。


 出発から数日の後、一行は両国を跨るフォリア山の麓に到着した。

 そして、翌朝の日の出と共に出発し、姫君の一行は隣国との国境地点、フォリア山の中腹にまで差しかかった。


 前方の隣国側にはプレートアーマーをまとった騎士が多数控え、一行の到着に備えて待機していた。

 そして、互いに視認し合うと、双方より各一名が歩み寄った。


「これより、コリンド国第三皇女殿下の護衛の任を移譲するっ!」


「護衛の任、これより当方に移譲されたことを了解したっ!」


 道中、国境までのコリンド側の警備を女エルフが行った。

 そして、一行がファイルド国との国境を越える地点で、警備担当が中年の一級剣士に代わった。


 コリンドと国境を接する地が、丁度ロスシルド領であり、その地の警備の総責任者が中年の一級剣士だ。


 女エルフと中年の一級剣士は互いに近づいたところで、二言三言軽い挨拶を行った。

 実は両者がハルコン抜きで会うのは、今回が初めてだった。


 だが、隔週で行われる定例ミーティングで互いの様子を知っている2人は、阿吽の呼吸で姫君の護衛、その権限移譲を円滑に行なうことができた。

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