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31 王ラスキンと神の御使い_05

   *          *


『なるほど。「神の御使い」殿は、我と共にあり、……か』


 王宮から、コリンドの宮殿に向けて書簡が送られてから数日。

 到着後、皇帝はその書面を読みながら、こう呟きなされた。


『如何でしたか、陛下?』


 様子を窺うように、女エルフさんがお訊ねする。

 どうやら女エルフさんは、順調に皇室の側近というポジションを得ているみたいだねぇ、とハルコンは思念を同調させながら思った。


 室内には、他にステラ第三皇女殿下と宰相、数名の侍女が控えている様子。

 陛下は問いかけた女エルフさんの方を見ると、『ふぅーっ』と深く長いため息を吐く。


 それから、無言で読み終えた書面を差し出してこられたので、女エルフさんは恭しく、『拝見いたします』といって両手で受け取った。


 さて、……どんなことが書かれているのだろう?

 その文面を、ハルコンは詳しく目で追ってみる。


 すると、極めて直接的な文体で、ラスキン国王陛下の意図が綴られているなぁというのが、率直な感想だ。


 先ず、コリンドが我が国と今後戦争を始めた場合、我が国は「火薬」を使った新兵器で対抗すると伝えているんだよね。


 そもそもこの「火薬」の件について、コリンドの皇帝陛下は既に織り込み済みだ。


 数日前、皇帝陛下は女エルフさんにこうお訊ねになられている。

『ファイルド国では、もう既に「火薬」が使われているのかね?』と。


 どうやら、貴族寮での花火大会の様子や練兵場での爆弾のお披露目の様子が、ファイルド国に送られている諜報員達によって、正確に伝えられているみたいなんだよね。


 もちろん、女エルフさんは「火薬」のことをご存じではないから、『ワカりません』としか答えられなかったんだけどさ。


 次に、我が国は今後「善隣外交」を行うため、挑発行為を含め、ありとあらゆる戦争の発端となる活動をしないと明言しているんだ。


 ファイルド国の軍隊は、先月より専守防衛を旨とする「自衛隊」に名称変更している。

 その裏付けが、どうやら「火薬」を使った極秘兵器の開発だったようだ。


 ハルコンは、王ラスキン陛下の英断を全面的に支持していた。


 そして、最後にその「善隣外交」について、いくつかのパターンが明記されていた。


 例えば、今後「ハルコンタイプB」を近隣諸国と共に開発するため、我が国は留学生を大いに受け容れる準備があると記されている。

 そして、今回のステラ第三皇女殿下の留学の打診について、我が国は大いに歓迎する旨伝えていた。


 ただし、殿下がまた10歳と幼いことから、研究機関への入学ではなく、先ずは王立学校への編入手続きをお願いしたいと明記されていた。


 つまり、……姫殿下のファイルド国への入国が、あくまで「留学」目的に限った場合にのみ歓迎する、と伝えているのだ。

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