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31 王ラスキンと神の御使い_02

   *          *


 貴族寮の裏庭の会場で行われた花火大会。そして、……その数日後に行われた練兵場での爆弾のお披露目。

 いずれも「火薬」を用いたものであるが、「娯楽から戦争まで」、その用途は幅が広い。


 ハルコンのいるファイルド国でも、近隣諸国でも、更にはファルコニアと呼ばれる世界広しと言えど、「火薬」はこれまで存在しなかった。

 少なくとも、ハルコンがこの世界に齎らさなければ、あと数百年は発明されない薬品だった。


 だが、この「火薬」製造技術は、いつか誰かの手によって必ず発見される。

 なら、こちらが前もって然るべき組織、今回は王宮に技術を伝達することで、適切な運営が為されることになり、問題は軽減されることになるだろうとハルコンは考えた。


 その点で、王宮の対応は極めて迅速かつ合理的だった。こちらの意図を汲むと、即座に技術の封印をすることに決めてしまったのだ。


 そして、何事もなかったかのように、仙薬エリクサー開発計画は着々と進められた。


 翌月、秋が更に深まってきた頃、ハルコンは予定どおりミラと共に爵位を授与された。

 その叙爵式は、王宮の小ホールにて行われた。王族数名の他、セイントーク家とシルウィット家のみが参列し、下級爵位のため簡易的に、ごく短時間で式は終わった。


 その結果、ハルコンは男爵位、ミラは騎士爵位を賜った。2人のそれぞれの功績の大きさにより爵位に差が出たのだが、2人とも喜んで受け容れた。


 それから数ヶ月続く、冬の季節になった。

 ハルコンとミラはひとつ年を取り、8歳になった。


 王都の市街から雪がなくなった頃、仙薬エリクサーの開発を行うための研究所の建設が、急ピッチで進行中だ。


 その建設現場には多くの石工や大工が集まり、ノミを大いに振るっている。

 その傍らで、出来上がった部屋から順に研究員が次々と配置され、薬品開発を着々と進めている。


 ハルコンは研究所の所長に就任すると、研究作業の多くを研究員達に任せ、自分は各部屋で実験作業をしている研究員達を労って回ることに徹している。


 ノウハウは、貴族寮の離れにある研究室兼居室にて十分蓄積している。

 ハルコンの役割は、それを大人の研究員達に正しく無駄なく伝達し、効率的に作業を行って貰うことだ。


 朝礼のミーティングでその日の作業を研究員達に伝達すると、ハルコンは王立学校まで馬車で移動する。

 昼間は学業に勤しみ、夕方再び研究所に戻ってくると、大人の研究員達に交じって意見を交換する。


 新たな発見があればハルコンは更に指示を出し、一方で大人の研究員達の意見をフィードバックする。

 気が付くと深夜に突入している。ハルコンも研究員達もハルコン「タイプB」を飲んで疲れを発散させると、更に作業に没頭する。


 そんな環境の中、作業の合理化はどんどん進む。

 研究所の建物も完成し、全ての部屋が利用可能になった頃、今度は近隣諸国から多くの研究員達が集まり始めていた。


 季節は過ぎ、ハルコンが9歳になった頃、王宮から「至急こられたし」との連絡が届いた。

 ハルコンは身支度を整えると、さっそく王宮に向かった。

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