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31 王ラスキンと神の御使い_01

「あぁっ。ラスキン国王陛下は、私のことを『神の御使い』と仰っておられた、……」


 ハルコンは王宮から貴族寮に帰る途中、馬車の中でそう呟いた。


 今回、陛下から直々に呼び付けられたことを、ハルコンは現在セイントーク領に戻っている父カイルズに、直ぐに書簡で報せていた。


 父カイルズは、深謀遠慮の人だ。絶えず先を見越して行動し、最善の策を講じる頼もしい人物だとハルコンは思っている。

 だから、今回の件もいい形に収まるよう、父カイルズが王宮や各所に働きかけてくれるのではないかと期待していた。


 何故、今回まだ年端のいかないハルコンに召集がかかったのか?

 それは、先日貴族寮の裏庭の会場で行われた花火大会の顛末を、ハルコン自らが王宮に説明するよう求められたからだ。


 おそらく、お説教かな?

 内心冷や冷やした気持ちで王宮に訪れると、ラスキン国王陛下のお言葉は、こんな具合だった。


「ハルコン、いや『神の御使い』殿、……この『火薬』の他にも、あなたは異界の知識をお持ちになられるのか?」


 これまでとは打って変わって、改まった態度を取られる王ラスキン。

 そうなると、ハルコンは「はい」と正直に答えざるを得なかった。


「そうか。『御使い』殿のお持ちの知識の一端が、これから世に広まって現実のものとなったら、さぞや凄まじいことになるのでしょうな」


「そう、……なのかもしれません」


 ハルコンがそう言ってひとつ頷くと、王ラスキンと宰相は、しばしの間黙ってから、静かに微笑まれた。


「ならば、『御使い』殿。貴殿は先日『火薬』には『戦争から娯楽まで』用途があることを仰っておいでだが、……その『戦争』についても、ご説明頂けるのか?」


「後日、王宮近くの練兵場にて、ご覧頂けますか?」


「あぁ。しかと見させて頂きましょう!」


 そう王宮側と口約束をしてから数日後、ハルコンの許に早馬で父カイルズから書簡が届いた。


 ハルコンが直ぐに書面を確認すると、それは「オマエの思ったとおりにやりなさい!」という、全面的にこちらの行いを信頼した内容だった。


 翌週、ハルコンは王族や軍の上層部を前にして、「火薬」を使った爆弾を披露する。

 それは、その場にいた者全ての肝を、大いに震え上がらせることになった。


 もし今後これを使うことになったら、目も当てられない程、敵も味方も死んでしまう。

 この「火薬」という技術は、ファイルド国の王族と上層部のみが秘匿するものとし、一時的に封印することで話はまとまった。

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