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22 仙薬エリクサーにまつわる話_07

   *          *


 何だか、館内の様子がかなり慌ただしい。

 先程まで、ギルドの中は利用客もなく、とても閑散としていたのだが、……。


 それが、急に職員と思われる揃いの制服を着た人達が多く現れると、蜂の巣を突いたように右に左に動き回り始めたのだ。


「ねぇ、一体どうしたんだろ、ハルコン?」


「うぅん? 私にも、中のことはワカらないなぁ」


 ミラがこそっと訊ねてくるので、ハルコンも曖昧に応じた。

 実は、ハルコンは先程NPCのギルド職員を一人見つけていたので、その職員の意識にタグを貼り付けていた。


 その女性職員によると、突然のハルコンとミラというVIPの訪問に、ギルドマスターがその日の予定を全て後回しにして、とりあえず一度会ってみようと言い出したようなのだ。


 なるほどねぇ。上級職の思い付きに、下の者が右往左往している、というワケか、……。


 ハルコンの前世晴子の時代、アイウィルビン(晴子の開発したエリクサーの原材料のこと)の研究に興味を持ったアルメリアの富豪が、極秘でキャンパスに訪れたことがあった。


 すると、大学の職員達は総出で出迎えを行い、学長から学部長、院長まで、まるで大名行列のように連なって、研究室に雪崩れ込んできたのだ。


 当時、極秘で開発していたはずのエリクサーの研究を、一体どこで嗅ぎ付けたのか不思議に思ったものだが、……とりあえず会って話を聞くことにした。


 その富豪は、アルメリアのハルベルト大学に、教授の席をひとつ用意したと伝えてきた。

 もちろん、晴子はそんなのお断りだ。一応丁重に言葉を選んで、お引き取りを願った。


 確か、……あれから一年だったなぁ。私が暗殺されたのって。


 そんな嫌な記憶が、一瞬ハルコンの脳裏をよぎったのだが、直ぐに首を振って打ち消した。


「どうぞ、こちらです。お入り下さい!」


 ハルコンとミラは長い廊下を抜けると、エルフの女職員の案内で資料室に入った。

 その部屋は室というにはかなり広く、資料のぎっしり詰まった書棚の膨大な多さからもワカるように、王都周辺のデータが集積されている拠点のようだ。


 重厚な書棚の林を抜けていくと、奥のテーブル席に大柄な人物が腰かけているのが見受けられた。

 その男性は中年を少し過ぎた位で、恰幅がよく、ギルドの上級職員らしい制服を着込んでいる。


 すると、その男性は「おぅ、きたかっ!」と言って立ち上がると、ズンズンとこちらに近づいてきた。


 身の丈は地球の換算で2メートル程。左右の前側頭部に、10センチ程の角が生えている。

 その特徴から、おそらく竜人。彼がギルドマスターなんだろうなぁと、ハルコンは思った。


 もう一人は、線の細い眼鏡をかけた若いヒューマンの女性だ。たぶん、彼女が資料室の研究員だろう。


 ハルコンは、「こんにちは!」と朗らかに挨拶しながら、席に向かった。

 ミラはその聳え立つ竜人を見て、思わず目を丸くしていた。

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