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「……、というワケで、土壌から貴重な物質を生み出す放線菌を、採取することが可能となります!」
「ふむふむ。なるほどーっ。よぉーくっワカりました!」
シルファー先輩は、目を輝かせてハルコンの話を聞いていた。
とにかく、こちらの話す言葉のひとつひとつが、あまりにも彼女の知る世界の常識からはかけ離れていたようだ。
先程湯を沸かす際に、マッチで簡単に火を着けた時も驚かれていたのだが、……。
火魔石かと訊ねてこられたので、「それとは別物ですよ」とお伝えした。
とにかく、見るもの聞くもの、初めて尽くしで大変興味をそそられたようだ。
これまでにシルファー先輩が講師達から学んできた全ての学問と比べて、それらは極めて異質だった。
ハルコンは先輩がワカり易いように、様々な身近なアイデアを練り込ませてお伝えした。
傍らに座るミラも、先輩と一緒になって熱心に聞いている。
「土壌には、エリクサーの材料となる放線菌が息づいています」
「えっ、エリクサーですって?」
シルファー先輩は、思わずこちらの言葉に飛び付いた。
「そうですねぇ、まだ内緒の段階なのですが。研究成果の一部をご覧になりますか?」
「はいっ。ぜひ、お願いしますっ!」
「では、これらをご覧になって下さい!」
こんなこともあろうと、予めサンプルをシャーレに保管しておいた。傍には顕微鏡を数器並べてあるから、直ぐに見ることができるよ。
「それで、こちらの顕微鏡というのが、……」
軽く顕微鏡の説明をした後、シャーレに入っているサンプルを見易く取り出した。
「では、……ご覧下さい!」
さっそくシルファー先輩が顕微鏡を覗くと、……そこには、土壌にいる無数の微生物がウヨウヨしているのだ。
「うっ、うわぁ~っ!?」
それを見て、思わず肩を震わせてしまうシルファー先輩。
「すっ、凄いわねぇっ、ホンとビックリしたわっ! それで、このウネウネしたものの中に、仙薬エリクサーの素となる放線菌? とやらが含まれているのね?」
「そうです。私はずっとそれを探しています!」
勘のいいシルファー先輩は、身震いした後、直ぐにキリッと表情を改められた。
「人手とか機材とか、不足があったらぜひ私に言って下さいっ! こちらで全てお手伝いいたしますのでっ!」
「ありがとうございますっ! それで、私とミラの、森への外出許可は頂けますか?」
「えぇ、構いませんよ。誰か大人を一人か二人、付けてよろしいのでしたら」
「えぇ~っ!」
ニッコリと笑うシルファー先輩に、ハルコンは思わず苦笑いを浮かべた。
「ハルコン、私にマッチの製法を教えなさいな! これから交渉を始めますよ!」
シルファー先輩は笑顔だけど、……目が少しも笑っていなかった。