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さっそく、ハルコンはシルファー先輩を連れて、男子寮の離れにある研究室兼居住スペースである個室に向かった。後にはミラも一緒に付いてくる。
男子寮には、最近サリナ姉を始めとして、女子達がハルコンの居室に頻繁に訪問するようになっており、男子達は女子達の訪問に目を白黒させていた。
「おぃっ! ついに、シルファー殿下までお越しだぞっ!」
「凄ぇな、ハルコンのヤツ。殿下までお呼びしやがった!」
「ミラちゃんやサリナ姉御だけでなく、ホンと許せんっ!」
男子寮の生徒達が羨み半分に小声で噂する中を、シルファー先輩はにこやかに手を振りながら通り過ぎてゆく。
でも、ミラはなかなか男子達の視線に慣れないようで、若干身体を屈めて後に付いてきた。
そう言えば、……と、ハルコンはかつての自分を思い出す。
ハルコンの前世、聖徳晴子の頃、彼女は大学から研究室時代まで、ず~っと女子寮にいた。
彼女よりも長く寮にいる者は稀で、大半が就職や結婚を理由に、寮を去っていった。
自然、10年近く寮にいた彼女は「主」扱いされ、尊敬と畏怖の対象となっていた。
女子寮故に若い女性が多く、中には男友達を招く者もいたのだが、……それをわざわざ晴子にご注進してくる者もいた。
「誰だって、たまには息を抜きたい時もあるのよ。だって、人間だもん!」
どこかの有名なセリフをパクってそう伝えると、相手はヒシッと抱き付いてくる。
「晴子様には、私がおります故、……」
あぁ、なるほど。私はこうして男子から遠ざけられていたのか。
ハルコンがクスクスと思い出し笑いをしていると、シルファー先輩とミラは、不思議そうにこちらを見てくる。
「アハハ、着きました。ここが私の研究室になります!」
そう言って、ハルコンは自分の研究室兼居室スペースに女子2人を招き入れた。
「ウワァッ! 凄いですねぇーっ、ハルコンッ!」
シルファー先輩は、まるで錬金術師の部屋のようなハルコンの研究室を見て、思わず感嘆の声を上げた。
「では、こちらにご案内しますね!」
ハルコンはそう言って、研究資財が所狭しと載っている長テーブルの一角に連れてゆく。
シルファー先輩の目から見て、その器材のひとつひとつが初めて目にするものであり、光学顕微鏡など、ここハルコンの研究室以外には存在しない道具を、目を輝かせて見つめていた。
シルファー先輩は、ハルコンにエスコートされて丸椅子に腰かけると、隣りの席に「失礼します!」と言いながら、ミラが慣れた調子で座った。
「とりあえず、お茶でも飲みながら話しませんか?」
「えぇ。あまりお構いなく」
シルファー先輩の言葉にニッコリ頷くと、ハルコンはさっそくマッチで五徳付きのアルコールランプに点火して、湯を沸かし始めた。
「なっ、何ですかこれっ!?」
初めて見た器材の小さな炎とマッチを、先輩は好奇心たっぷりに交互に顔を振って、じっと見る。