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22 仙薬エリクサーにまつわる話_02

   *          *


 さっそく、ハルコンはシルファー先輩を連れて、男子寮の離れにある研究室兼居住スペースである個室に向かった。後にはミラも一緒に付いてくる。


 男子寮には、最近サリナ姉を始めとして、女子達がハルコンの居室に頻繁に訪問するようになっており、男子達は女子達の訪問に目を白黒させていた。


「おぃっ! ついに、シルファー殿下までお越しだぞっ!」


「凄ぇな、ハルコンのヤツ。殿下までお呼びしやがった!」


「ミラちゃんやサリナ姉御だけでなく、ホンと許せんっ!」


 男子寮の生徒達が羨み半分に小声で噂する中を、シルファー先輩はにこやかに手を振りながら通り過ぎてゆく。

 でも、ミラはなかなか男子達の視線に慣れないようで、若干身体を屈めて後に付いてきた。


 そう言えば、……と、ハルコンはかつての自分を思い出す。

 ハルコンの前世、聖徳晴子の頃、彼女は大学から研究室時代まで、ず~っと女子寮にいた。


 彼女よりも長く寮にいる者は稀で、大半が就職や結婚を理由に、寮を去っていった。

 自然、10年近く寮にいた彼女は「主」扱いされ、尊敬と畏怖の対象となっていた。


 女子寮故に若い女性が多く、中には男友達を招く者もいたのだが、……それをわざわざ晴子にご注進してくる者もいた。


「誰だって、たまには息を抜きたい時もあるのよ。だって、人間だもん!」


 どこかの有名なセリフをパクってそう伝えると、相手はヒシッと抱き付いてくる。


「晴子様には、私がおります故、……」


 あぁ、なるほど。私はこうして男子から遠ざけられていたのか。


 ハルコンがクスクスと思い出し笑いをしていると、シルファー先輩とミラは、不思議そうにこちらを見てくる。


「アハハ、着きました。ここが私の研究室になります!」


 そう言って、ハルコンは自分の研究室兼居室スペースに女子2人を招き入れた。


「ウワァッ! 凄いですねぇーっ、ハルコンッ!」


 シルファー先輩は、まるで錬金術師の部屋のようなハルコンの研究室を見て、思わず感嘆の声を上げた。


「では、こちらにご案内しますね!」


 ハルコンはそう言って、研究資財が所狭しと載っている長テーブルの一角に連れてゆく。


 シルファー先輩の目から見て、その器材のひとつひとつが初めて目にするものであり、光学顕微鏡など、ここハルコンの研究室以外には存在しない道具を、目を輝かせて見つめていた。


 シルファー先輩は、ハルコンにエスコートされて丸椅子に腰かけると、隣りの席に「失礼します!」と言いながら、ミラが慣れた調子で座った。


「とりあえず、お茶でも飲みながら話しませんか?」


「えぇ。あまりお構いなく」


 シルファー先輩の言葉にニッコリ頷くと、ハルコンはさっそくマッチで五徳付きのアルコールランプに点火して、湯を沸かし始めた。


「なっ、何ですかこれっ!?」


 初めて見た器材の小さな炎とマッチを、先輩は好奇心たっぷりに交互に顔を振って、じっと見る。

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