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21 派閥と武闘大会_07

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「「「「「「「「「「ワアアアアァァァーーーッッ!!」」」」」」」」」」


 ミラが試合場に上がっていくと、ハルコンの時よりも更に歓声が高まっていく。


「ミッラァッ、ミッラァッ、ミッラァッ、ミッラァッ、ミッラァッ、……」


「えっ!?」


 ミラは、思わず息を飲む。


 それもそのはず、この武闘大会で準決勝まで勝ち昇ってきた女子は、ミラ・シルウィットただ一人。しかも王立学校に入学したばかりのルーキーガールだからね。


「ミラァーッ、かわいいよぉーっ、結婚してぇーっ!!」


「へっ!?」


「「「「「「「「「「ワハハハハッッ」」」」」」」」」」


 そんな突拍子もないかけ声が起こると、途端に会場中に笑いが起こった。


「タハハッ、……ホンとトンでもない」


 ミラは、思わず頬を人差し指で掻いた。


「オマエらっ、うるさいっ! 黙れ、黙れ、黙れぇーっ!!」


 すると、対戦側に立つ少年がいきり立って叫び出した。


「さて、……と。私も、そろそろちゃんと決めないとね!」


 ミラは冷静にそう呟くと、ゆっくりと対戦相手の方を向き、じっと睨み返した。

 ノーマン・ロスシルド。これまで彼は父親の地位と財力を武器に、ミラのことを散々イジメ抜いてきた。


 それが、ハルコンを始めとするセイントーク家の働きかけや、王族のシルファー先輩の鶴の一声もあって、シルウィット家、ロスシルド家の間の婚姻話は立ち消えになっていた。


 だから、その恨みもあるのだろう。ノーマンだけでなく、姉のイメルダまで、セコンド席からミラのことを蛇のような目で睨んでいた。


 これまでのミラは、この姉弟がとにかく苦手だった。


 ミラの心には、いつでも「正義」のような理想が大半を占めていたのだが、現実世界はそう甘くはなかった。


 ミラのいる貴族社会はその典型で、「力」こそ「正義」、そんな実例をまだ幼い頃から散々味わってきた。


 父のローレルには、たった一度だけ我が儘を言ったことがある。


「父上は、この前の戦で武勲を上げた貴族です。なら、『悪』の限りを尽くすロスシルド家を誅してもよろしいのではないでしょうか?」


 ミラの言葉に、父ローレルは一瞬驚きの表情を浮かべたものの、何も言わず黙り込んでしまった。

 ミラはそんな父を見て、自分で何とかするしかないと腹を決めた。


 しばらくして、ハルコン・セイントークと仲良くなった。

 師匠の一級剣士によると、ハルコンは不思議な少年で、この世界の理不尽全てに対して、制圧し得る「力」を持っていることを教えてくれた。


 ミラは心を真っ白にして、ハルコンに教えを欲した。すると、とても優しく丁寧に、いくつもの改善策を教えてくれた。


 ミラは一級剣士の助言のとおり、ハルコンから多くを学んで吸収していった。

 だから、月一回のノルマで、ロスシルド家の敷居を跨ぐことも苦にならなかった。

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