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さて、……と。私の方も、チャッチャッと片付けてしまわないとね。
ハルコンは、ミラと共に準決勝まで勝ち進んでいた。勝ち星を上げ続けることで、更に人気が高まっていく好循環にも恵まれた。
「「「「「「ハルコーンッ、頑張れーっ!!」」」」」」
試合場に上がると、多くの声援に包まれる。
そんな歓声の最中、イメルダの派閥の幹部で、騎士爵の父を持つ大柄な少年と対峙した。
相手は鎧こそ身に付けてはいないが、木製のロングソードを背に悠然と立ち、こちらを袈裟がけに叩きつけようと上段に構えた。
一方、対戦相手に比べて年齢が低いこともあり、体格がひと回りも小柄なハルコン。
木製の薙刀をスラリと構え、ロングレンジで迎え撃つつもりで、防御の姿勢を取る。
おそらく、相手はロングソードに身を委ね、試合開始と共にこちらに向けて飛び込んでくるはず。ハルコンは油断なく、相手の挙動をじっと観察する。
「「「「「「応援してるぞぉ―っ、頑張れーっ!!」」」」」」
会場中、ほぼ応援の大半を独占してしまったハルコン。
対戦相手の少年は、ギリリと歯ぎしりをした。
ひりつく感覚。適度な緊張感。口の中が、少しだけ鉄の味がする。
チリチリとしたこの感覚は、対戦でしか味わえない、特別なものだとハルコンは思う。
その研ぎ澄まされた感覚は、相手の挙動を未来予測していく。演算された無数の行動パターンの中から、最適解を見つけ出していくのだ。
これは、前世の晴子の頃より何も変わらない。常人離れしたハルコンの、……集中力の為せる技だ。
「始めいっ!!」
「「「「「「「「「「ワアアアアァァァーーーッッ!!」」」」」」」」」」
無数の歓声。試合開始と共に、対戦相手の少年が突進してきた。おそらく、体格差を活かして、プレスで仕留めようとの魂胆だろう。
ハルコンは一度バックステップを取り、相手との距離が離れた直後、サイドに展開して、一気に斜め前方の相手目がけて縮地した。
その間、コンマ数秒の出来事で、ミラとかホンの一部の者にしか、その挙動を掴めなかっただろう。
観客が気付いた時には、……対戦相手は、ハルコンが背後から峰打ちをかけたことで意識をロスト。白目を剥いて倒れ伏した後だった。
「「「「「「「「「「ワアアアアァァァーーーッッ!!」」」」」」」」」」
止まない歓声。ハルコンは愛想よく笑顔で観客に手を振り、王族席で観覧中のシルファー先輩にも恭しく挨拶する。
「ミラッ、次の試合、必ず勝ってよっ!!」
「はいっ!!」
歓声の冷めない中、ミラは共にガッツポーズを取ると、意気揚々と試合場に上がっていく。