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長らく続いた隣国との戦争で、貴族も商人達もその多くが疲弊した。
そのため、財力のあるジョルナム・ロスシルド伯爵から多額の借金をしてしまい、とても頭の上がる状態ではないらしい。
実は、ハルコンは王ラスキンと父カイルズらの会合で、憂慮すべき事態として話を窺っていた。
宰相に至っては、ジョルナムが弱みに付け込むのなら、我々はヤツの弱点を握っているのだから、改易させても構わないとまでいって憤慨していたのを、ハルコンは思い出す。
「甚だ不愉快な話ですが、……それが、我々子供の世代にまで、深く影響を及ぼしているんです」
シルファー殿下の言葉に、ミラは悄然と俯いてしまった。
王立学校内部のグループは、概ね三つに分類される。
イメルダ・ロスシルドに服従する者達で形成された強固な派閥と、屈せずに抑圧され続けている弱者の一群。
その他の者は、我れ関せずを決め込んで、累が及ばない程度に前者から距離を保っているのだとか。
ハルコンの兄達は、生来温厚で公平な思考の持ち主のため、そんな弱者達を庇い建てしてしまい、学内で非常に肩身の狭い思いをしているらしい。
一方で、サリナ姉はフラワーアレンジメントのサークルを立ち上げたことで、人気と人望を得ることに成功した。
冷や飯を食っている兄達を尻目に、着々と女子学生達のネットワークを築いているようだ。
「とりあえず、サリナのサークルに案内するわね!」
ハルコンとミラは、シルファー殿下に従って長い廊下を進んでいくと、殿下が王族であることも然ることながら、その華やかなルックスやオーラに学生達は魅入られていた。
学生達は、年齢男女問わず気さくに挨拶し、殿下も楽しそうに手を振っていた。
なるほどねぇ。やはり、何だかんだ言って、殿下だけは特別扱いなんだなぁとハルコンは思った。
サリナ姉のサークルルームに顔を出すと、大勢の女子の先輩達が、サークル入会希望者達の前でフラワーアレンジメントの実演をしているところだった。
部屋の奥に、サリナ姉を見つけた。
彼女は笑顔だけど、本日は総監督を務めているようで、いつになく威厳のこもった雰囲気で、腕組みして作業を見つめていた。
「凄い熱気だね。さすが、人気サークルなだけあるかも!」
ミラもここに入会したい様子で、その実演を熱心に見ている。
「おぉっ、ミラちゃんは経験者だから歓迎するよぉ。ねぇ入ってくれるんでしょ?」
サリナ姉が声をかけると、他の入会希望者達の視線が、瞬く間にミラに向けて集中した。
「たははは、……」
照れたように笑うミラを、シルファー殿下が微笑ましそうに見つめている。