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「あら、お二人さんっ。入学オリエンテーションは如何でしたかっ?」
ハルコンとミラが受講案内を聞き終えて、多くの新入生達と共に大講堂から出てくると、シルファー殿下がよく通る声で話しかけてきた。
「殿下、科目がたくさんあって、……どれも大変興味深いです。だよね、ミラ!」
「はいっ、私もそう思いますっ、殿下っ!」
ミラも、うんうんと頷いている。
「どれも目移りしそうですが、殿下のお薦めの科目とかありますか?」
ハルコンは、率直にひとつ年上の先輩に訊ねてみた。
「ハルコン様、それにミラさん、……私達は、同じ学び舎で共に学ぶ学徒です。ここでは王族も貴族も平民もありません。ですから、これから私のことはシルファーとお呼び下さい。私もあなた方のことを呼び捨てにしますから。いいですね、ハルコン、ミラッ!」
「「ワカりましたっ、シルファー先輩っ!」」
朗らかに応じる2人。殿下は、呼び捨てで名前を言って貰いたかったようなのだが。
「まぁ、それでも結構です。えぇと、そうですねぇ、……あなた方にお薦めの科目は、領地経営学と貨幣経済学、それと魔物生物学かしらね。どれも必修科目ですから、早めに取るといいですよ!」
「「ワカりましたっ!」」
その後、ハルコンとミラの2人は、シルファー殿下の案内で学園内を回りながら、有力貴族や豪商の子供達の紹介を受けている。
彼らは、先日のパーティーにも参加していた子達だ。そのため、ハルコンがセイントーク家の者だと知って、とても気さくに話してくれた。
ミラのことも、パーティー会場でその美貌が際立って目立っていたこともあり、皆お近づきになれて嬉しいといって喜んでいた。
「ねぇハルコン。私達もサリナ先輩のフラワーアレンジメントのサークルに参加しているの。だから、あなた達のことも、もちろん歓迎するわ!」
そう告げる女子生徒達に訊ねると、どうやらサリナ姉のフラワーアレンジメントのサークルは、学内でかなり大手なのだとか。
すると、その女子生徒達が声を潜めてちょいちょいと手招きするので、ハルコンとミラは近づいて耳を貸した。
「あなた達、イメルダ・ロスシルドの派閥にだけは、くれぐれも気を付けてね!」
「イメルダ・ロスシルド、……ですか?」
「えぇ、そうよ。ちゃんと伝えたからねっ!」
ミラが、思わず顔を顰めた。あまり話そうとしないから、こちらも訊ねないようにしていたのだが、……ミラは、イメルダのことが相当苦手らしい。
「あの子はねぇ、……ちょっと」
ハルコンが声のした方をちらりと見ると、殿下が何とも言えない表情を浮かべていた。
何でもイメルダの派閥は、父親の財力を武器に、学内で相当幅を利かせているらしい。