* *
「オォ~ッ!?」
ハルコンは、寮長に渡された鍵で部屋の扉を開けると、……思わず感激して声を上げてしまった。
確か、通常の寮生は2人部屋に入るんじゃなかったっけ?
でも、この部屋のつくりは、どう見てもシニア向けの広めの個室だった。
しかも、通常の一人分のデスクセットや衣装タンス、ベッドとは別に、……何と、天板が3畳程もある長机が2基設置されているのだ。
「うん、いいね、いいねっ!」
天板をさすりながら、思わず嬉しくて踊り出したい気分になる。
これなら、王都でもセイントーク家の研究室同様、十分作業し易いかも。
ここって、本来ならシニア向け、……おそらく、王立学校の教師向けの個室なんじゃないのかな?
「何だか、特別扱いされ過ぎているような、……」
とりあえず、シルファー殿下のご配慮に、深く感謝申し上げます。
ルンルン気分で踊るように部屋の奥に入っていくと、更にハルコンは目を見張った。
「なっ、何これぇ~っ!?」
何と、……壁一面を覆う数基の本棚に、最新のアカデミーを網羅した書物がぎっしりと並んでいる。思わず息を飲むハルコン。
「ハルコン・セイントーク、……さすがのキミも、驚いたかい?」
「ハッ、ヒャァ~ッ!?」
突然、寮長が後ろから声をかけてきたものだから、ハルコンの全身に雷が走ってしまった。
「あぁ、悪い、悪い。部屋の扉が開けっ放しだったからさ、様子を見にきたんだよ。とりあえず、寮の中は安全だけど、盗難とかも考えられるから、ちゃんと用心してくれな!」
「はい、……」
「キミも驚いたようだが、この部屋の蔵書は中々のものだよ。経済学、経営学、錬成科学、人文学など、将来役に立ちそうな書籍を見繕っておいたからね。結構値の高い本もあるから、くれぐれも気を付けてくれな!」
「あのぉ、……ホンとに、私がこの部屋を使ってもよろしいのですか?」
「あぁ。シルファー殿下から許可を頂いている。有効に使ってくれたまえ!」
「ありがとうございます」
そう言ってハルコンが深々と頭を下げると、寮長は嬉しそうに手を振って部屋を出ていった。
ハルコンは、セイントーク邸の書籍を読み尽くしていたので、とにかく活字に飢えていた。
試しに2、3冊手に取ってみると、なかなか興味深い。
「ふむ、ふむ、……、なるほど、なるほど」
そうやって、しばしの間、ついつい読み耽ってしまった。
「そうだっ! その前に、やることがあるんだったっ!」
ハルコンは、田舎から持ち出してきた資料や機材の入った木箱を荷解きすると、さっそく長机の上に設置し始めるのだった。