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シルウィット領の現場は、極めて合理的だ。
人力のクレーンのみならず、これまで仕事にあぶれていた獣人達のマンパワーが惜しげもなく投入され、みるみるうちに掘り進められていく。
その一部始終を、まざまざと見せ付けられる査察団一行。
ハルコンがローレル卿から伺った話によると、今回の件以降、シルウィット家は女盗賊と長期契約を結び、領内のまだ進んでいない公共事業に着手させるとのこと。
獣人ネットワークにも協力を仰ぎ、今後も関わらせることが決まっているのだそうで。
「それって、……シルウィット領が、今後更に発展するということですよね?」
シルファー殿下が目を見張って、ローレル卿にお訊ねになられた。
「はいっ。我が領は、これからどんどん発展いたしましょうぞっ!」
ローレル卿は、目を輝かせて殿下に意欲を語った。その言葉に、殿下もニッコリ。
殿下に伴ってハルコンとミラが現場を歩いていると、獣人の人夫達や技官らが気さくに挨拶をしてきた。
「坊ちゃん、今日もいらしたのですかい?」
「はいっ。皆さん、ご安全にっ!」
「へいっ、ガッテンでさっ!」
現場が絶賛稼働中なのに、とても和やか。でもピィーンと緊張感は保たれている。
「クレーン運搬と人の適材配置をいくつかアドバイスしたら、皆さんに喜ばれちゃって」
ハルコンは、ニッコリと照れたように笑う。
すると、シルファー殿下は、一瞬野心的な表情を浮かべられた。でも、直ぐにいつもの笑顔で、ハルコンとミラの肩をポンポンと叩かれた。
「えっ? 殿下、これは一体!?」
ミラが困惑した笑顔を向けると、殿下は輝くような笑顔をお向けになられた。
「私達、これから良き友人になりましょう!」
「よ、よろしいのですか? 嬉しいですっ!」
ミラも喜んで笑うと、殿下も極上の笑みを浮かべられた。
「ねぇ、ハルコン様も、……お嫌ですか?」
「いっ、いえっ、トンデモないっ! ぜひ、よろしくお願い申し上げますっ!」
ここで、3人が共に笑顔になると、奥でローレル卿ら大人達が、揃って臣下の礼を取って、恭しく頭を下げていた。
ハルコンは、殿下がさすがは王族だと思った。おそらく、今後様々な形でモーションをかけてこられるのだろうなぁと。
そして、今回殿下が終始友好的でいらしたのは、おそらく私達の青田買いを兼ねているのだろうなぁと。
「ミラさん、せっかくですから、何かお悩み事とかありませんか? 耳をお貸しいたしますよ!」
殿下のお言葉に、ミラはちらりとこちらを見てきた。直ぐに頷き返すと、ミラはさっそく、殿下の耳に小声でお願いをお伝えした。
殿下は、最初にこやかに聞いていらしたが、段々険しい表情におなりになり、こう断言された。
「ロスシルド家との悪意のある縁談は、私の権限で正式に握り潰させて頂きます!」
「よろしいのですか!?」
「えぇっ、もちろんです。私達友達でしょ?」
ニッコリと微笑まれる殿下。
「ありがとうございますっ!」
これで、ミラは晴れて自由の身となった。ローレル卿も深々と頭を下げている。
シルウィット家も、王族のお墨付きを得て、これで無事お家安泰だ。
「ハルコン様、ミラさん。お二人が近く王立学校に入学すると聞いて、私は非常に楽しみです。王都にいらしたら、またいっぱいお話をしましょうねっ!」
シルファー殿下はそう仰って、ニコリと微笑まれた。