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午後半刻程経った頃、シルファー殿下率いる査察団は、シルウィット領の工事現場に到着した。どうやら、食事は馬車の中で済まされたようだ。
こちらの現場も、もう終盤に差し掛かっており、大勢の作業員達が汗を流して働いていた。
「ようこそ、お出で下さいました。シルファー第二王女殿下、現場までご足労頂き、誠に畏敬の念に堪えません!」
シルウィット領の当主ローレルが直々に指揮を執り、家臣団と共に査察団一行を出迎える。
そんな大人達に交じって、末席に控えていたハルコンとミラがニコニコと現れた。
「それでは、殿下! 私からクレーン運搬技術のご説明をさせて頂きます!」
「えぇ、お願いしますね、ハルコン様」
「はいっ!」
そこでシルファー殿下は、査察団の技官達と共に、くだんの新技術、クレーン運搬を間近で目撃することになる。
天高く聳え立つクレーン機器に、先ず査察団一同は大いに驚愕する。
「これは、……壮観ですな。さて、どの位の運搬能力があるのか、とても興味が持てますな」
査察団の技官が殿下にそう進言すると、殿下も興味深そうに頷かれた。
「それでは、さっそく始めて下さいっ!」
「「「始めいっ!」」」
ハルコンの指示で、クレーンの現場主任が次々と獣人の部下達に指示を送る。
すると、玉掛けされた土砂が、次々と持ち上がっていく。
「「「ゴーヘイ、ゴーヘイ、ゴーヘイ、……」」」
それから、しばらくして土砂の集積場の上まで進むと、
「「「スラー、スラー、スラー、……」」」
その掛け声と共に、土砂が巻き下げられていく。
「すっ、凄いですっ!? あれだけの土砂が、一度に運び出せるなんてっ!?」
思わず目を見張られるシルファー殿下。技官達も驚嘆の声を上げる。
とにかく、あまりにも画期的過ぎたのか、査察団の技官ですら理解が追い付かない様子だ。
「なら、模型でご説明いたしますね」
ハルコンは、さっそく笑顔でミニチュアのクレーンを使って、荷降ろしのシミュレーションをやって見せた。
すると、査察団の技官達がこぞって様々な質問を行ってくるので、その全てに丁寧に返答した。
シルファー殿下は余計な口を挟まず、その話全てを真剣な表情でお聞きになられていた。
「なるほど、力の3要素と梃子の原理を応用したワケですなっ! ハルコン殿、なかなかの慧眼であらせられるな!」
「いえいえ。少ない労力で、最大の活躍が期待できますので。ぜひ今後ご活用の程を!」
「そうですな。この技術は、さっそく王宮に持ち帰って、国全土に広めましょうぞ!」
「えぇ、どうぞどうぞ!」
ローレルや家臣達も目を見張って、ハルコンと技官のやり取りに耳を傾けている。
そんな具合に、大人達が若干7歳の少年の話を真剣に聞いているものだから、ミラはもう鼻高々だ。