目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

18 シルファー殿下の査察_02

   *          *


「まぁっ、お二人は幼馴染でいらしたのですね!?」


「「はいっ」」


 晩餐の席で、シルファー殿下には、改めて私とミラが幼馴染だとお伝えした。


 本日、ミラがシルウィット邸に帰るにはもう夜遅くなってしまったため、今日もセイントーク家にお泊りとなった。

 そのことを殿下がお聞きになられると、


「まぁっ。大変仲がおよろしいのですね?」


 シルファー殿下は、年下の私とミラを、ホンの少しだけ揶揄う調子でお訊ねになられた。


「はいっ。ずっと仲良しです!」


 すると、ミラは屈託なく笑顔で答えた。


「それは、大変羨ましいですわ」


 殿下もニッコリと微笑まれた。

 王宮では、最近セイントーク家のことが話題に上がらない日はないのだそうで。


 殿下が特産のデザートを見て、プリンや生クリームケーキ、マロングラッセに大変目がないことを正直にお伝えになられると、晩餐の席はとても温かい雰囲気に包まれた。


 へぇー。何だか嬉しいなぁと、ハルコンは思った。


「これらのお菓子って、いずれもハルコン様がご考案されたのですか?」


「えっ!?」


 ハルコンは、思わず言葉に窮した。

 ちらりと父上を見ると、口元に握り拳を当てて、「ンッ、ンーッ」と、咳ばらいをひとつした。


 とにかく、殿下は王都の名だたる菓子職人すら唸らせる様々なスィーツを、若干7歳の子供が生み出したのかとお訊ねになられているワケだが、……。


 ごくあっさりと、シルファー殿下はジャブをお入れになって下さったものだ。


「そうです。ハルコンの作るお菓子は、どれもホンっと、美味しいんですっ!」


 ミラは、年齢故に殿下の探りに対していささかも気にすることなく、正直に答えてしまう。


「それは、素晴らしいですっ!」


 シルファー殿下は、さも感激した様子で両手を打つと、そのまましばらくの間、女子同士話が弾んだ。


「そう言えば、セイントーク領産の香水ですけれど、バラを『蒸留』? してエッセンスを取り出すのでしたよね? この『蒸留』技術は、確かドワーフの親方が考案されたものを応用していると聞いておりますが、……」


「はい、それはですね。実はハルコンが、……」


「ンッ、ンーッ」


 父カイルズが、再びわざとらしく咳払いをひとつして、ニコリと笑った。

 ミラはハッと気づいた顔をして、慌てて口元を両手で隠した。


 おそらく父上としては、子供達の楽しそうなやり取りに、大人が水を差すつもりはないのだ。でもまぁ、内心冷や冷やしながら話の行方を見守っているのだろう。


 とにかく、父カイルズは、今回の上水道の査察程度に、わざわざ王族が派遣されたことを非常に懸念しているはずだ。


 父上は、王宮への私の派遣要請を、年齢を理由に断っている。だから、向こうからわざわざ様子を見にこられたというのが、今回の真相なんだろうとハルコンは思った。


 まぁ聡明な殿下なら、今日の出来事だけを見ても、王都でのセイントーク領の噂は本当だったと理解されるはずだ。


 とりあえず、今日のところは女子二人に合わせて、ニコニコと笑顔でいようとハルコンは思った。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?