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「まぁっ、お二人は幼馴染でいらしたのですね!?」
「「はいっ」」
晩餐の席で、シルファー殿下には、改めて私とミラが幼馴染だとお伝えした。
本日、ミラがシルウィット邸に帰るにはもう夜遅くなってしまったため、今日もセイントーク家にお泊りとなった。
そのことを殿下がお聞きになられると、
「まぁっ。大変仲がおよろしいのですね?」
シルファー殿下は、年下の私とミラを、ホンの少しだけ揶揄う調子でお訊ねになられた。
「はいっ。ずっと仲良しです!」
すると、ミラは屈託なく笑顔で答えた。
「それは、大変羨ましいですわ」
殿下もニッコリと微笑まれた。
王宮では、最近セイントーク家のことが話題に上がらない日はないのだそうで。
殿下が特産のデザートを見て、プリンや生クリームケーキ、マロングラッセに大変目がないことを正直にお伝えになられると、晩餐の席はとても温かい雰囲気に包まれた。
へぇー。何だか嬉しいなぁと、ハルコンは思った。
「これらのお菓子って、いずれもハルコン様がご考案されたのですか?」
「えっ!?」
ハルコンは、思わず言葉に窮した。
ちらりと父上を見ると、口元に握り拳を当てて、「ンッ、ンーッ」と、咳ばらいをひとつした。
とにかく、殿下は王都の名だたる菓子職人すら唸らせる様々なスィーツを、若干7歳の子供が生み出したのかとお訊ねになられているワケだが、……。
ごくあっさりと、シルファー殿下はジャブをお入れになって下さったものだ。
「そうです。ハルコンの作るお菓子は、どれもホンっと、美味しいんですっ!」
ミラは、年齢故に殿下の探りに対していささかも気にすることなく、正直に答えてしまう。
「それは、素晴らしいですっ!」
シルファー殿下は、さも感激した様子で両手を打つと、そのまましばらくの間、女子同士話が弾んだ。
「そう言えば、セイントーク領産の香水ですけれど、バラを『蒸留』? してエッセンスを取り出すのでしたよね? この『蒸留』技術は、確かドワーフの親方が考案されたものを応用していると聞いておりますが、……」
「はい、それはですね。実はハルコンが、……」
「ンッ、ンーッ」
父カイルズが、再びわざとらしく咳払いをひとつして、ニコリと笑った。
ミラはハッと気づいた顔をして、慌てて口元を両手で隠した。
おそらく父上としては、子供達の楽しそうなやり取りに、大人が水を差すつもりはないのだ。でもまぁ、内心冷や冷やしながら話の行方を見守っているのだろう。
とにかく、父カイルズは、今回の上水道の査察程度に、わざわざ王族が派遣されたことを非常に懸念しているはずだ。
父上は、王宮への私の派遣要請を、年齢を理由に断っている。だから、向こうからわざわざ様子を見にこられたというのが、今回の真相なんだろうとハルコンは思った。
まぁ聡明な殿下なら、今日の出来事だけを見ても、王都でのセイントーク領の噂は本当だったと理解されるはずだ。
とりあえず、今日のところは女子二人に合わせて、ニコニコと笑顔でいようとハルコンは思った。