「遠路はるばる、ようこそお出でなさいました、シルファー第二王女殿下。セイントーク領を代表して、このカイルズ、大いに歓迎申し上げますぞ!」
「はいっ、我が査察団への温かいお出迎え、誠に感謝申し上げますわ、カイルズ卿」
父カイルズに、ニッコリと笑顔でお答えになる殿下。
今、セイントーク邸では、家臣も含め全ての者が、玄関前の車寄せに並んで集まっていた。
ハルコンとミラも馬車から降りると、直ぐに列の先端、カイルズの隣りにサッと並んだ。
シルファー殿下とカイルズが軽い挨拶を交わしている間、ハルコンとミラは気を付けぇ! の姿勢で、ピィンと直立不動で控えている。
殿下はその様子を見て、先程の勇猛果敢なハルコン達のことを思い出されたのか、少しだけクスリとお笑いになられた。
「先程、ローグの森にて、我が査察団がゴブリンライダーの群れに襲われていたところを、ハルコン様とミラ嬢に助けて頂きました。2人の加勢もあり無事ことなきを得て、内心ホッとしているところです」
「それは難儀でしたな。我が領でも傭兵団によって定期的に魔物の討伐が行われているのですが、まだ狩り足らなかったようです。巡回をより強化しようと思います」
ハルコンは、殿下と父とのやり取りをちらりと窺った。
シルファー殿下が、父カイルズに対し討伐の不備を責めずに、感謝の意のみを示されたので、父上は何だかホッとした表情を浮かべているなぁと思った。
まぁとにかく、王族のシルファー殿下にケガがなくて済んで良かったと、ハルコンもホッと一息吐いた。
「それにしても、……あんな森の中で、お二人が土いじりをされていただなんて」
殿下が、さも不思議そうに話を振ると、
「はい。我が息子は、大変困ったことに、土いじりが大のお気に入りでございまして」
父カイルズは、思わず苦笑いを浮かべて答えている。
「まぁ、そのおかげで、……我々査察団一行は、無事助かったのですけれどね」
「た、確かに、……」
さらりと本音を漏らされる殿下に、父上はいたく恐縮した様子で頷いている。
すると、殿下が急にこちらにお顔を向けられた。
「それにしても、ミラさん。あなたは何故ハルコン様に付き添っていたのですか? 女の子が森の中に入るのって、怖くなかったのですか?」
「ハルコンって土いじりをさせると、夢中になって時間を忘れてしまうんですよ。それで私が付き添いをして、彼を屋敷にムリやり連れ戻す係なんです」
そう言って、笑顔で胸を張るミラ。
「あら、先程もそう仰ってらしたわね、ウフフフ」
「はいっ」
殿下とミラは、年齢の近い者同士、親しそうに笑い合う。
「カイルズ卿、ハルコン様はとても大事な研究をされているのだとか。私も馬車の中でお話を伺い、大変素晴らしいと思いました。今後とも、応援して頂けますね?」
「もちろんです、殿下。息子と相談しながら、研究を続けさせたいと思います」
「はいっ。良かったですね、ハルコン様!」
殿下はニッコリ手をひとつ叩かれると、それからハルコンに白い歯を見せて微笑んで下さった。
これはつまり、殿下が私の研究活動に対し、お墨付きを与えて下さったことになるワケだとハルコンは思った。