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17 ミラの縁談_07

   *          *


 シルファー第二王女殿下に招かれ、ハルコンとミラは王族専用の馬車に乗った。

 ハルコンもミラも貴族の子供達だから、贅沢な内装の馬車にはこれまで何度も乗ったことがある。


 確かに、今回の馬車は3頭立てで、容量も広いタイプだ。でも、客室の内装は極力簡素に仕上がっており、クッションのみに頼って長旅を凌いできたことが見受けられた。


「思ったよりも普通でしょ?」


「「そうですね」」


 自然と、ハルコンとミラの言葉がハモる。

 おそらく、ミラはハルコンがドワーフの親方に言って作らせた快適な馬車を知っているため、それと比較してしまったのだろう。


「私、聞いたんですよ。セイントーク領には、最新鋭の馬車があるって。私の乗るこの馬車は、もう15年落ちです。もしかすると、あまり快適ではないのかもしれませんね」


 ハルコンとミラの心を見透かすように、殿下が微笑まれた。


「セイントーク領の工場で作っている馬車には、板バネという地面から伝わる車輪の振動を和らげる装置を使っています。そうすると、車酔いや乗り疲れがかなり改善されると思いますよ」


「へぇー。ハルコン様は随分、物知りでいらっしゃいますのね?」


 さも興味深そうに、ハルコンの目の奥底まで覗き込むように見つめてこられる。

 殿下は美人で意志的で、とにかく迫力がおありだ。彼女の物事に対する訴求力というか、執着力こそが、王族を王族たらしめるのではないかとハルコンは思った。


 セイントーク邸に到着するまで、ハルコンとミラは殿下からあれこれと様々な質問攻めに遭っていた。

 先程の戦闘の際の体捌きとか、ミラの棒捌きとか。2人が森で何をしていたのかとか。


 ハルコンがどの質問にも正直に誠実に答えるため、気を良くされたシルファー殿下は、先程の襲撃の後にも拘わらず、終始リラックスしたご様子だ。

 ハルコンも、殿下が楽しまれておられるので、内心ホッとした。


 殿下は王族だけど圧迫感のない、むしろ気さくに接して下さるお方だ。

 ミラも、当初王族相手とあってガチガチに緊張していたのだが、殿下のきめ細やかな心遣いに触れて、自然と笑みがこぼれていた。


 途中、普請工事の終わった上水道の脇を通ることがあった。


「ハルコン様、いくつかお訊ねしてもよろしいですか?」


「はい、何なりと仰って下さい!」


 ハルコンも笑顔で応じる。


「工事の関係者が、もう現場には誰も残っていないようですが、……。いくら何でも、工事の完成には、いささか早過ぎはしませんか?」


「まぁ、……そうですかね」


 ハルコンは、殿下が探りを入れてきたのかなぁと直ぐに察した。なので、言葉は極力簡潔に、正確に話さなくちゃダメだと思った。


「もしかすると、もうセイントーク領の工事は終わっているのでしょうか?」


「はい。先月の末には」


 ニッコリと答えるハルコン。

 シルファー殿下は、ハルコンの言葉に嘘偽りがないことを悟ったのか、真面目な表情でひとつ頷かれた。

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