* *
「皆さん、お怪我はありませんか?」
身なりの良い旅装の少女が馬車から降りてきて、さっそく衛兵達を気遣っている。
ハルコンは、なるほど、……あの子がシルファー第二王女殿下かと思った。
すると、たちまち殿下と侍女は、衛兵達に囲まれているご様子。
「ご無事で何よりでございます、殿下。こたびの少年達の加勢により、魔物は全て排除されましたっ!」
衛兵の隊長がちらりとこちらを見るので、殿下と思わず目が合ってしまった。すると、隊長がニヤリと笑って軽く敬礼をしてくるので、ハルコンも会釈で返した。
とりあえず、殿下と一度ご挨拶しないとな。
ハルコンは一部の衛兵の力を借りて、通行の妨げにならないよう、ゴブリンと犬狼の死体を道端の窪みに運ばせているところだった。
すると、待ちきれなかったのか、殿下は侍女と衛兵隊長を伴って、走って作業を見にこられたのだ。
「きちゃった! ふふっ」
ニコリと微笑まれる殿下。傍らでは、侍女が積まれた魔物の死体を見て、ギョッとした表情で固まっている。
「で、殿下っ! 直ぐにこちらから伺いましたものを!」
「ふふっ、いいんです。本来、私がお礼を伝える立場なのですから!」
殿下は笑顔を絶やさない。フットワークが軽く、それに魔物の死体にも動じない、……なかなか胆力のあるお方だなと、ハルコンは思った。
「よくぞ我ら一同をお救い下さいました。私の名はシルファー・ファイルド。あなた方に幾千の感謝をお伝え申し上げます!」
そう仰って、ペコリと頭をお下げになる殿下。
「いえっ、殿下、頭をお上げ下さいっ! 私達はただできることをやっただけですからっ!」
「いいえぇっ。それだけのことを、あなた方はやって下さったのですからっ!」
ハルコンと殿下はお互い言い合って、何度もペコペコとお辞儀を繰り返した。
そして、改めて一行は上水道普請工事の査察団だと、代表のシルファー殿下ご自身が説明された。
ハルコンとミラも、貴族の子弟子女らしく恭しく礼をし、自己紹介を行った。
「なるほど、……あなた方がハルコン・セイントーク様とミラ・シルウィット嬢でしたか。もしよろしければ、このままカイルズ卿の許まで案内して頂けませんか?」
「はいっ。謹んでお連れいたします」
ハルコンがニッコリと笑うと、シルファー殿下も優しく笑みを浮かべられた。
「それにしても、……あなた方って、とても常軌を逸したお強さなのですね!?」
「はいっ! 私とミラは、とても強いですっ!」
「まぁっ」
王都一の美少女と名高い、シルファー殿下の満面の笑み。ハルコンは殿下のあまりの美しさに、思わず目許がチカチカしてしまった。
「ムゥ~ッ」
すると、ミラが少しだけ神経を尖らせると、眉間に皺を寄せて腕を掴んできた。
更にはミラのヤツ、……たまに足を蹴ってくるんですけど。痛いんですけど。
とりあえず、王族の前ではスマイル、スマイルだよ、ミラ!