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査察団の衛兵達は槍や剣を手に闘っているが、ゴブリンライダーの数はざっと30。形勢はかなり不利と言えた。
ギャッヒャァッッ!!
ウオォォ~ンッ!
「何としても姫様をお守りしろぉーっ!!」
戦闘で騒然とする中、衛兵隊長の悲痛な叫び声が続く。
すると、森の中から突然、……一組の少年と少女が現れた。
「助太刀いたしますっ!!」
見るからに身なりのいい服装。知性的でよく整った明朗な顔立ち。おそらく貴族の子供達であろうと思われる雰囲気。
侍女のセロンは、シルファー殿下を守りつつ馬車の中からその様子をじっと見ていた。
「あの方は、……おそらくハルコン・セイントーク様でございます」
「あの少年が!? まだ子供じゃない! それに女の子まで一緒よっ!」
「えぇ。助太刀と仰いますが、私には、とてもそのようには思えません」
「なら、私も一緒に闘うわっ! あんな子供だけ闘わせるワケにはいきませんものっ!」
「なりませんっ! 殿下はここで待機ですっ!」
「グッ、ムゥ……」
セロンの非常時故の剣幕に、シルファー殿下は従わざるを得なかった。
「いくぞっ、ミラッ! いつものように連携するよっ!」
「了~解っ! いつでもいいよっ!」
ハルコンとミラは、とても慣れた調子で体捌きすると、急に縮地してゴブリンライダーに肉薄する。
ギャッヒャァッッ!!
ウオォォ~ンッ!
「そぉ~らよっと!!」
ハルコンはごく自然な様子で犬狼の背に飛び乗ると、ゴブリンの下顎を掴んで地面に叩き落す。
「イィ~ヤァァァッッ!!」
一方、ミラも気合一閃、長枝をぶんぶんと振り回すと、薙刀術を駆使して、次々とゴブリンライダー達を叩きのめしてしまうのだ。
「一体、何なのっ! あの2人っ!?」
シルファー殿下が、窓にしがみ付いて叫んだ。
「者共っ! 子供達に後れを取るなっ! 参るぞっ!!」
「「「「「「「「「「ウオオオォォォーーーッッッ!!!」」」」」」」」」」
衛兵隊長の指示に鼓舞されて、叫び声を上げる衛兵達。
戦局がガラリと変わり、衛兵達はハルコン達の活躍に刺激されたのか、奮ってゴブリン達を倒しては、刃で串刺しにしていく。
10数分後、……全てのゴブリンと犬狼を殲滅した衛兵達は、ついに勝鬨を上げた。