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ハルコンは、もしかして、……と思った。
そう言えば、そろそろ上水道の普請工事の査察団が、王都から到着する頃なのではなかったかと。さっそく思念を同調させてみる。
すると、シルファー第二王女殿下の侍女セロンと意識が繋がり、その思念が映像と共にハルコンの頭の中に流れ込んできた。
「殿下、この森を抜ければ、もう直ぐセイントーク邸に到着でございますよ」
「へぇーっ、楽しみぃーっ!」
どうやら、王ラスキンの要請に従い、シルファー第二王女殿下を代表とする査察団一行は、セイントーク邸に向かって領内の森林の街道を進んでいるところのようだ。
セロンの目を通して映るシルファー殿下は、期待に胸を膨らませ、目がとても活き活きとされていた。
ハルコンが掴んでいる情報によると、今回、査察団は東方3領の普請の進捗具合を見にいく名目で、現地を訪れることになっている。
そして、査察団は主にセイントーク領に滞在し、3領を順に見て回ることになる。
でも、シルファー殿下の真の目的は、ハルコン・セイントークと接触し、セイントーク領の頭脳だと突き止めること。そのために、ハルコンと友人になりなさいと。
まぁ、ハルコンとしては、殿下のご期待に、なるべくなら応えたいなぁと考えていた。
「あれっ!?」
ハルコンは、思わず呟いた。
侍女の視野を通じて、草木の生い茂ったその先に、……ゴブリンの緑色の頭が、いくつも見え隠れしているのだ。
「どうしたの、ハルコン?」
ミラが不思議そうに訊ねてくる。
まさかっ、……ゴブリンライダー達が狙ってるのって、殿下の査察団なのかっ!?
ハルコンはその場を駆け出すと、ミラも後を追っ駆けてくる。
「どうしたの、ハルコンッ!? 一体何があったの?」
「ミラッ、緊急事態だっ! 街道に急ぐよっ!」
「うん、ワカった!」
ハルコンは現地に急ピッチで向かいつつ、侍女の思念をトレースする。
「ハルコン君って、王都に溢れる魅力的な商品の発案者なんでしょ? ぜひ、彼と会ってお話がしたいわ!」
「まだ年齢もお若く、殿下よりひとつ年下と伺っております」
「だからよ! なおさら興味深いわ!」
ウオォォ~ンッ!
突然の、……犬狼の遠吠え。
話を止め、身構える殿下とセロン。
「殿下、お守りいたします!」
セロンは殿下を身体ごとガードするつもりなのか、覆い被さるように抱き付いている。
殿下も、息を殺して外の様子を窺っている。
「殿下をお守りしろっ!!」
衛兵隊長の叫び声に、陣形を整えつつ構える査察団一行。
衛兵達が手際よく守備を固めたところに、大型の犬狼に騎乗したゴブリンの群れが、咆哮を上げて襲いかかってきた。
ハルコンは、ミラと共に街道まで森の中を駆け抜けていく。