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「ねぇハルコン。シルウィット家は、これから一体どうしたらいいんだろう? こんな嫌がらせが、いつまで続くと思う?」
「……」
おそらくずっと手こずらせられるだろうなぁ、なんて本音を言えるワケもない。
「なら、ハルコンは私達のことを助けてくれる?」
正直に、ハルコンにお願いしてくるミラ。
さて、……どうしよっかなぁとハルコンは思った。
そもそも父カイルズは、ロスシルドと直接事を起こすことは避けたいと思っている。
セイントーク家の当主がジョルナムを泳がしている以上、子のハルコンがその方針に背くワケにはいくまい。
ハルコンは、既に東方3領の上水道普請の査察団が急遽編成されたことを掴んでいた。
なら、その査察団に好印象を与えれば、領同士の諍いに、国が待ったをかけてくれることもあるのかもしれない。
ハルコンは、様々な可能性を模索した後、期待と不安の目でこちらを見つめてくるミラに向き合った。
「シルウィット領の普請工事が、せっかく上手くいっているんだ。王宮の要請に、ちゃんと対応できてるんだから大丈夫っ! それで、査察団からお墨付きを貰えれば、ロスシルドは嫌がらせをしにくくなると思うよっ!」
「ハルコンがそう言うのなら。でも、何かあったら手伝って下さい!」
ミラはホッと胸を撫で下ろすと、ニコリと笑顔で頼んできた。
その辺りの用心深さが、貴族の子女らしいとハルコンは思った。
すると偶然、……遠方の草木の陰に、ゴブリンの緑色の頭がいくつか動くのを目撃する。
ハルコンは、慌ててミラの口を塞ぐと、そのまま木の陰にパッと隠れた。
ミラも異変に勘付いたのか、じっと黙っている。ハルコンは姿を隠しつつ、向こうの様子を窺った。
あれっ!? 何だか、おかしいな? ゴブリンの頭の位置が、妙に高いんだけど。
背の低いゴブリンの身長なら、地上2メートルの位置に頭がくるわけがない。
おそらく、馬か大型の犬狼に跨っているのかもしれないと思った。
とりあえず、その数を見ていくと、全部で30。街道の方に向かっていくようだ。
「どうやら、ゴブリンライダーの群れに遭遇したみたい。厄介だから、このまましばらくの間、隠れていよう!」
ミラもこくこくと無言で頷く。
ライダーの群れが街道に向かったということは、おそらく隊商などを狙っているのだろう。
さて、この後どうしようか? とハルコンは思った。