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ハルコンは、いっそのこと一級剣士にフルダイブして、ロスシルド家の一族郎党なで斬りにしてしまおうかと、そこまで思い詰めてしまっていた。
「顔が怖いよ!」
ミラに言われ、ハルコンはハッとすると、ムリやり気持ちをクールダウンさせる。
今回、ロスシルド領とシルウィット領を結ぶ、長大な上水道の工事が行われている。
そこで当主のジョルナムは財力を武器に、シルウィット家にムリやり姻戚関係になるよう迫ってきたワケだ。
それが仮にご破算となれば、これから先、一体どうなることだろう?
ロスシルド家は、シルウィット家に普請工事を完成させるだけの統治能力がないと、王宮に訴えるつもりだろう。
シルウィット領を廃止して、領地をロスシルド領に編入。それに伴ってジョルナムは侯爵に格上げして貰うよう上申するはずだ。
「ホンと、……何かとうるさい一族だなぁ」
思わず、本音を呟くハルコン。
すると、ミラが彼の肩をポンと掴むと、
「ハルコン、さっきよりもっと顔が怖い!」
そう言って、じとっと見つめてくる。
「タハハ、……そだね」
そろそろ、何か手を打つ必要があるのかもとハルコンは考えた。
ハルコンはミラの不平を聞きながら、セイントーク領の街道から少し離れた森の中を分け入って進んでいた。
相も変わらずハルコンは精力的に土壌サンプルを集めていて、そのアシスタントにミラがくっ付いて回っている。
「そう言えばミラ、……王宮には、既にシルウィット領でも普請が上手く進んでいるとの情報が届いているみたいだよ。普通なら実現不可能なはずなのに、これは一体どういうことだろう? とかね」
「へぇーっ。ハルコン、よくそんなこと知ってるね? どこで聞いたの?」
「ん~っ。内緒かな?」
白い歯を見せて、ニッコリと笑うハルコン。
ミラもニッコリと微笑むと、次の言葉を促すように、じっと見つめてくる。
「ロスシルド家は、相変わらずシルウィット領の普請が上手くいっていないと国王に進言しているみたい。なら王宮としては、一度東方3領まで査察にいこうって話になったそうだよ」
「ふぅ~ん、そうなんだ」
ミラはそう言って、ひとつ頷いた。