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「シルファー、オマエにひとつ頼みがある。学校が夏休みに入ったら、期間中にセイントーク領に向かって貰いたいんだ!」
王ラスキンが、末娘のシルファー殿下に気さくな調子で話しかけてきた。
王宮にある、王族のためのプライベートルームにて。ソファーセットと少しの家具があるだけの、非常に簡素な造りに仕上がっている寛ぎのスペースだ。
今回、室内にいるのは、陛下とシルファー殿下と宰相と侍女のソロンの4名のみ。
ハルコンはソロンの目を通して、中の様子をばっちり窺っていた。
「セイントーク領!? 私、ぜひいってみたいですっ! 私は、そこで何をすればよろしいのでしょうか?」
嬉しさを隠し切れずに訊ねるシルファー殿下。まぁ、おそらく普段勉学に忙しい彼女を気遣って、夏休みの遊学、旅行も兼ねているのかなぁとハルコンは思った。
「査察だな。セイントーク領他の東方3領において、現在上水道の普請を行っているところだ。その査察団の代表として、オマエにいって見てきて欲しいんだ!」
「査察、……ですか? あいにく、私には専門的な土木技術の知識がありません。詳しいところは、団の供の者が現場を見て判断する、ということでよろしいのでしょうか?」
「まぁ、そういうことだ。王都ばっかりに居ないで、外の様子を見てきて欲しいところだな。それとは別に、オマエには役割があってだな、……」
「はい?」
小首を傾げてお訊ねになる、シルファー殿下。陛下はひとつ咳ばらいをすると、耳を貸せと仰って、殿下を手元に近づかせた。
「実はな、……オマエに、セイントーク家の3男、ハルコンという少年を見てきて欲しいんだ!」
「……、その話、大変興味がありますっ!」
思わず身を乗り出す殿下。
王都の街で、今とても噂になっている少年、……ハルコン・セイントーク。
殿下の表情は、好奇心で輝きに満ち溢れていた。
「そんなに興味があるのなら、オマエで適任だな。できるだけ少年と会う時間を作り、可能なら友達になってやってくれ! 王都に戻ったら、あれこれ話を聞かせて貰うぞ!」
そう仰って、シルファー殿下の肩を笑顔でポンポンと叩かれる陛下。
殿下は父親の軽妙な仕草に、「まだ何か隠しているなぁ?」と、何かに勘付いたように、小さく呟いていた。
室内の者に殿下の呟きは届かなかったものの、セロンの目を通して様子を窺っていたハルコンは、殿下のその声を確実に拾い上げていた。