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「ねぇーっ、セロン。街の人って、いっつもこんなに笑顔なの?」
「えぇ、もちろんでございます、シルファー殿下!」
「ふぅ~ん。そうなんだっ!」
侍女と2人だけで王都の街を散策していると、街の人々は皆明るく活気があって、笑いに満ち溢れていた。
「今、王都は戦後復興策が整って、大変賑わっておりますよ。街の治安も良くて、ゴミひとつ落ちてなくて快適なんです!」
「ふぅ~ん」
「貧民街もなくて、上下水道完備で極めて衛生的! 人々は皆、健康的な生活ができるとあって、とても喜んでいるんです!」
戦災で焼かれた瓦礫も全て撤去され、新たに道路も整備されて久しい。
アーケード市場には商店が軒を多く連ね、店の品揃えも大変豊富だ。その品々も国中の産品が競うように並べられ、値段もとてもリーズナブル。
「あぁ~っ、セロン、……目移りしちゃう~っ!」
殿下は財布と相談しつつ、ウインドショッピングを楽しんでおられるご様子。
「香水とか、シャンプーとかリンスとか。バラの香りのする石鹸とか、ホンと大好きっ!」
殿下は、お店で飾られる、美しい花々にも目を奪われているご様子だ。
「殿下、……こちらの品々の多くが、どうやらセイントーク領産のようですよ!」
侍女のセロンが、店員から花束を受け取りながら伝えると、殿下は満面の笑みを浮かべられた。
「セロン、実はね、……私、前からやってみたかったことがあるの!」
「はい?」
小首を傾げて伺うセロン。どうやら、殿下のお楽しみは、露店にて買い食いをすることのようだ。特に甘いものをご所望とのこと。
「それでしたら、東方3領、特にセイントーク領のアンテナショップで売られている、プリンとかクレープがお薦めでございますね!」
「プリン、クレープ? へぇーっ? とっても楽しみだわっ!」
店まで移動すると、庶民の甘味を知らない殿下が、白い歯を見せて微笑まれる。
「どうぞ、殿下。さっそく頂きましょう!」
「ンッ、フゥーンッ!? 甘いっ!?」
「こちらのクレープは、お芋や麦芽を煮詰めて、甘味を取っているそうですよ。ウフフッ」
初めて味わった庶民のスィーツ。シルファー殿下は目を白黒させた後、その鮮烈な甘みに、思わず虜になったような表情を浮かべられた。
「凄いわね、セイントーク領って! 一体どうなっているのかしらっ!?」
そこでセロンは、セイントーク領産の様々な商品やサービスが王都を如何に豊かにしているのか、ひと通り説明する。
「ねぇ、セイントーク領って、……もしかして、地上の楽園なのかしら?」
殿下がアンテナショップの店主にお訊ねになると、……何でもセイントーク領には、相当の知恵者がおられるのだとか。
「それってどんな人? 賢者なの? よぼよぼのお爺さんなの?」
「いいや。ここだけの話だが、実はまだ年端もいかない子供らしい。何でもセイントーク家のご子息様で、名をハルコン様と仰るそうだ。まぁオレも街の噂で聞いた位で、不確かなことしか知らないんだけどな」
「そうなの。おじさんありがとう」
ニッコリと微笑まれる殿下のあまりの美しさに、思わず頬を赤くする店主。
「ふぅ~ん、ハルコンねぇ、……フフフッ、一体どんな子かしら?」
思わず、……ロックオンされた熱い視線が、ここまで届いてきそうな勢いを感じるハルコンだった。