* *
ハルコンはここ数日の間、シルファー第二王女殿下の様子を、側仕えの侍女セロンの視野を通してじっと窺っていた。
何しろなぁ、……。父上の与り知らぬところで、王様達がシルファー殿下と私をくっ付けようと画策されているのだからなぁ。
全く困ったもんだよと、ハルコンは長いため息をひとつ吐いた。
まぁ、でも、……まさか父上に相談できるワケでもないし。とりあえず、こちらとしましては、殿下の人となりを知っておくことが、とっても大事なことだよね!
そんな風にハルコンは心に言いワケをしつつ、今日もまた殿下の素行観察を行っていた。
シルファー殿下は、通学の際、馬車の車窓から眺める街の風景に強い関心をお持ちのようだ。
「ねぇ、セロン。私も街中を歩いてみたいわっ!」
嬉しそうに目を輝かせて、市場の活気ある様子を見つめる殿下。
「そうですね。今日の午後は、特に予定は入っておりませんから、私がご案内いたしますわ」
すると、侍女の言葉に、シルファー殿下はパァーッと満面の笑みを浮かべた。
放課後王宮に戻ると、さっそく殿下と侍女の2人は、彼女の私室に入っていく。
セロンは、何やら大きな袋をひとつ抱えていた。
「殿下、こちらの服に着替えて頂けますか?」
取り出した服を見ると、……どうやら庶民服に着替えさせて、お忍びで街を散策させるつもりらしい。
へぇーっ。何だかあん〇つ姫みたいだな、とハルコンは思った。
「私、こういう服着るの初めてっ!」
興味深そうに手に取ると、ニッコリと微笑まれるシルファー殿下。
さっそく侍女と共に用意した気軽な街着に着替えると、王宮を抜け出して、街へ繰り出した。
殿下は元気溌溂。庶民の地味な服を着ているのにも拘わらず、その麗しきオーラが隠し切れないようだ。
何だかとても楽しそうだし、侍女も特段心配した様子もないので、まぁ問題ないだろうとハルコンは思った。
実際、殿下に危険のないよう、適度に距離を保ってガッチリとガードする、隠密らしき人物を数名確認できた。
ハルコンは、ここ最近、シルファー殿下だけでなく、他の王族の様子もそれとなく観察していた。
どうやら、父である王ラスキンも、娘のお転婆ぶりを当然把握しているようだ。
王族のシルファーが民の日常に興味を持つことを、大変良いことだと言ってお妃様に褒めている位だし。
むしろ、自分から積極的に民と関わろうとする娘を、誇らしくすら思っているようにも見受けられた。