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「むぅ、……確かに。ハルコン・セイントークか。一度会って話がしてみたいものだな」
王ラスキンはそう言って、女占い師に対し一見同調したそぶりを見せた。
たとえ国王と言えど、こうと決めた女の一存を改めさせるのは至難の業だと思ったのかもしれない。ましてや、相手は妙齢のクセに7歳の少年に入れあげる女子だ。
とにかく、王と宰相は張り付いた笑顔を見せて頷くと、ご機嫌伺いを手際よく始めたのだ。
すると、女占い師は表情をパァーッと輝かせて、嬉しそうに何度も頷いた。
なるほど、……陛下と宰相様は、からめ手もお上手だなぁとハルコンは思った。
「セイントーク領に戻っているカイルズに、これまでに数回書簡を送っている。その内容は国の経済政策への助言を求めたりと多岐に渡るのだが、……カイルズの3男ハルコン、この少年を王都に向かわせるよう、要請しているところだよ!」
「それに対し、カイルズ様は如何ようにお答えになったのですか?」
女占い師が、いささか前のめりな調子で訊ねた。
「ハルコンはまだ7歳と若く、貴族としての教育が途中のため、王宮に赴くなどは時期尚早、……そう言って丁重に断ってきたよ」
「まぁ、……確かに、理に適った言い分ではございますな」
王の横で頷く宰相。
「一度こちらに寄越せば済む話ではないかっ! ハルコン・セイントークは、神の御使いであるやもしれぬのだぞっ!」
ラスキンは苦悩を隠さず、そう呻くように言葉を漏らした。
「ならば、カイルズに恩賞や褒美を与えたらよろしいのではないでしょうか?」
宰相はそう進言するのだが、……。でも、この手が通じるような相手ではないからこそ、王はカイルズを重用してきたのだ。
「場合によっては、末娘のシルファーをハルコンにあてがってもいいのだ!」
それは、地方貴族の3男坊に王族を嫁がせるという、……かなり破格の対応と言えた。
「陛下、それこそ時期尚早なのでは? ハルコンを王都に送り出せないと申すのなら、こちらから人を送って少年の人となりを見る方がよろしいのでは?」
「ならば、何かいい名案、手立てはあるのか?」
ここで宰相はしばしの間、思考を巡らせている。ハルコンは、女占い師の目を通して、2人の様子を緊張しつつ窺った。
「現在、東方3領にて上水道の普請工事を進めております。その査察という名目で、こちらから人を送り出せばよろしいのかと。なお、その者はハルコン程に若く、かつ彼やセイントーク領に強い関心のある者が適任であると思われます」
「それならば、シルファーが適任であるな。現地へ査察団の代表として向かわせよう!」
「了解いたしました」
宰相は直ぐに案件をまとめるため、若い使いの者を呼んで団編成の指示を出した。
すると、その青年は深夜にも拘わらず命令に従うと、慌ただしく部屋を出ていった。