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「カイルズよ、ジョルナムを泳がせるとは、それは一体どういうことかね?」
宰相が、率直に疑問を呈してきた。王も父カイルズの顔をじっと見つめ、何と答えるか興味がおありのようだとハルコンは思った。
「私は、隣国コリンドとの窓口を、ジョルナム殿一本に集約させておくのがよろしいのではないかと考えております。その方が監視対象を特定できますし、管理し易いのではないかと」
「ふむ、なるほどな。密貿易の一元化か」
王と宰相は、カイルズの案が良い手と思われたのか、納得したように頷かれた。
「だがカイルズよ。隣国コリンドに我が国の商品やサービスが流れるのは、マズいのではないか? その点を、どう考えておる?」
宰相の問いに、カイルズはひとつ頷いた。
「敵国を利するのは、確かに問題です。ですが、隣国コリンドが我がファイルド国と同等の能力と資質に達していない時点で、それは保護対象と見做す必要があるものと思われます」
「カイルズよ、オマエは敵国に利益が流れても構わないと申すか?」
王ラスキンが率直に訊ねてきた。その声には、幾分怒気が込められていた。
「ファイルド国の戦後復興は、現在順調に達成しつつあると思われます。ですが、一方で隣国コリンドは上手くいっていないと報告を受けております」
その言葉を受け、宰相は、先程より黙っている女占い師に目を向けた。
「貴殿も、この場で伝えたいことがあるのでは?」
その問いかけに、彼女はひとつ頷いた。
王と宰相とカイルズが、女占い師をじっと見た。
「先程より、カイルズ様の仰るとおりです。帝都は貧民で溢れ、社会基盤も貧弱。もとより、衛生環境は最悪の状態と言えましょう」
「「何とっ!?」」
女占い師の言葉に、王と宰相は目を見張った。
「やはり、報告のとおりだったか」
カイルズが、仕方なさそうに呟いた。こちらは前もって女盗賊から隣国の情報が齎されているため、さほど響いている様子ではない。
「貨幣価値も下がり、その日の食事にもことを欠く。いつ人々の不満が爆発するかワカらない状況と、私は伺っております」
女占い師の言葉を聞いて、王と宰相とカイルズは、3人とも深いため息を吐いたまま黙り込んでしまった。
ここで、会合はしばらく沈黙するのだが、カイルズがこう口にした。
「ならばこそ、隣国が再び暴発しないよう、気付薬を与え続けないといけませんな!」
「カイルズよ、……その気付薬が効かなくなったら、最悪、どうなる?」
王のその言葉を受け、父カイルズは苦い顔をしてこう告げた。
「隣国が崩壊した場合、我が国に難民が雪崩を打って押し寄せますぞ!」
その言葉に、王と宰相は顔を真っ青にさせた。
どうやら、王と宰相は、父カイルズの提唱する妥協案に漸く傾いたようだと、ハルコンは思った。