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「ふむ。こうすれば、結果こうなって上手くいく。そのように予めワカっているような……まぁ、そういう者を我々は『賢者』とでも呼ぶべきかね?」
王ラスキンが、率直にカイルズに訊ねてくる。宰相もじっと見てくる。
「そのような『賢者』がおられましたら、私めも隠居して、領でゆったり過ごせるのですが」
「なるほど! そうだろう、そうだろう!」
王はそう言って宰相とお互いに顔を見合わせると、楽しそうに笑った。
すると、宰相が女占い師の方にちらりと目をやると、
「まぁ、確かに『賢者』と言えば、一人だけ私にも心当たりがあるのだが。如何せん、まだまだ子供のようだ。あなたは、御存じですかな、女占い師殿?」
王と宰相は、父への追及を止める気はないらしい。
ハルコンが女占い師の視点で見ると、父カイルズが余計な事喋ってくれるなよぉ、といった表情でこちらを軽く睨んでいるのが窺えた。
王と宰相は「賢者」の出現を心待ちにしているのか、期待に溢れた顔をされている。
「私からは何とも。占うこともできますが、如何なさいますか?」
女占い師は、暗にこう言っているのだ。これ以上踏み込むと、カイルズの手札をムリヤリ奪うことにもなりかねませんよ、と。
すると、王と宰相が「「まぁ、そうだろうなぁ」」とぼやいて、一度話はそこで止まった。
ハルコンは、本日もまた父カイルズが矢面に立たされてしまい、正直申しワケないなぁと思った。
ここで、カイルズがおもむろにこう話し出した。
「私は、これまでの政策が己の力のみで成し得た等とは微塵も思っておりません。様々な政策や社会基盤の整備、産業の促進、新商品の開発、……。あくまで民があってこそ、それらは実現して参りました。全てはラスキン国王陛下の下での統治と采配により、民が心を平らにして励んだ結果だと考えております」
「なるほど、カイルズはそのように捉えておるのか?」
「はい。善政を布く陛下のご配慮と、国民皆の努力、皆の協力、皆の創意工夫あってこそ初めて人々の生活は改善されるとの認識でおります」
「そうか、そうか、……。ならば訊ねたい。カイルズはロスシルドについて、どう考えておる? どうだろう、正直に答えて貰えるかね?」
現状、ロスシルド領では、セイントーク領産品の模造品が大量に作られていること。
だが、これまでカイルズはあえて権利を訴えようとはせず、沈黙を保ったままだ。
すると、王は更に言葉を重ねて、こう訊ねてきた。
「カイルズよ! オマエが常々唱えている『民の生活が第一』は、なかなか感心できる考え方だ。だが、ロスシルドに苦情を一切言わないのも、どうかと思うぞ?」
憂慮された表情で、カイルズに諭すように話しかける王ラスキン。
ハルコンは、その問いに父がどう答えるのか、じっと見守った。