* *
市井の人々の生活は、日を追うごとに改善されつつあるとハルコンは思っている。
ハルコンは、カイルズやドワーフの親方、大店の商店主や女盗賊や一級剣士、……、その他大勢の協力の下、世の中がもっと便利で快適になるよう、商品やサービス、社会インフラを数多く齎してきた。
戦後復興で、ギリギリの生活を余儀なくされてきた人々。
彼らに勇気と希望を与え、前向きになってくれたらいいなぁ、……なぁんて、そんなのちょっと余計なお世話かもなぁと自省する一面も持つハルコン。
でもさ。貴族が理想を唱えなくて、誰が一体世の中よくできるっていうの!?
貴族には、教養と知識の裏付け、それに財力がある。
なら、人々のために、その力を出し惜しみしては、絶対ダメだよね!
だからさ、……私には、まだこの世界でやることがいっぱいあるんだ。
とにかく、一番はエリクサーの開発だよっ! 早くこっちの世界でもアイウィルビンを発見して、人々に健康と長寿を齎して、世の中を根底から変えてやるんだっ!
ハルコンは、貴族の末席にいる者としてだけではなく、一研究者として理想に燃えていた。
同じ頃、王都の王宮の一室で、父カイルズは王ラスキンと側近の宰相、あともう一人、女占い師の計4名で内輪の会合を行っていた。
この会合は、ファイルド国王と宰相がいる時点で、事実上、この国の行く末を話し合う場となっている。
女占い師は、王都の街きっての情報屋であり、王や宰相からの信頼が厚い。
その女性はハルコンが懇意にしている6名のNPCのウチの一人であり、その思念を同調させることで、この国の大まかな流れを掴むことができていた。
そして、今回の会合も、その女性の目を通してハルコンに全て筒抜けだった。
「カイルズ、……貴殿の提唱した商業政策は、これまでのところ大変上手くいっている。セイントーク領産の商品やサービスは、安価で高品質だ。その信頼もあって、民衆にも深く浸透し、底上げされていると考えていいだろう!」
宰相の話に、カイルズはあまり表情も変えずに、「そうですな」とだけ言って頷いた。
「カイルズ。セイントーク領には、何者か優れた知恵者がおるな?」
すると、王ラスキンの言葉に、その場の誰もが明らかに反応を示した。
「陛下、……そのような者がおれば、私としても大変ありがたいのですが」
父が弱ったように笑うのは、おそらくまだ幼い私を庇ってのことだろうとハルコンは思った。